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[コメント] 飢餓海峡(1965/日)

左幸子なかりせば存外平凡な倒叙殺人劇だろう。脇役に過ぎない彼女の背中を一時間追いかける破格の構成こそが素晴らしい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







三國連太郎と左は二度、密室で相向かいになる。一度は旅館で、もう一度は成功した三國の応接室で。同じように窓の外を突然の豪雨が見舞い、同じようにネガ反転の描写がなされる。旅館の逢瀬で三國は左の首に手をかける。彼の猟奇的な性格の一端が仄めかされ、後段の殺人を予告している。

それは判るのだが、この三國の猟奇性が他の場面で全く示されないのがよく判らない。ただ馬鹿力だが臆病で真面目な人物と知らされるばかりで、何も肉付けがなされない。だから左の殺人を納得させるための思いつきのように見える。この突発的な猟奇から、三國の自殺により謎に終わった共犯者の殺害も、三國の説明通り、左の殺害と同じように突発的なものだったという説明が導かれる、ということだろうか。

しかし個人的にはあの謎かけは退屈だ。後半の一時間の推理劇は総じて弛緩している。DNA鑑定があった訳でなし爪が似ている位で罪を認めるのも不自然だし、駄々こねる三國を北海道に連れていく警察も何しているのかよく判らない。貧しい実家を見て犯罪を予感したなどという刑事の発言は、聞いていて余り気持ちのいいものではない。伴淳の刑事も類型的、甲板で手錠外すのはさすがにご都合主義だろう。

しかしこれらを補って余りあるのが左幸子の件。股座に札束を隠す名高い場面をはじめ名演技の数珠つなぎ。湯治場では丸裸で風呂につかっているぞ。時代からいってあり得ないことではなかっただろうか。ほとんどロマンポルノである。情に厚くて可愛くて不幸しか呼び込まない八重を造形して余すところない。敗戦直後のドヤ街を逃げ回り駆け回る彼女を追いかけるキャメラの躍動感は内田吐夢の傑作のひとつと思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)カプリコーン 3819695[*] けにろん[*]

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