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[コメント] 狂走情死考(1969/日)

冬の湖水で全裸で水浴びする黒木華似の武藤洋子は心臓発作を起こさないか心配になる。さすがに湖には入らなかった。「人民戦線」は必ず負けるのだった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







背景の新宿動乱は、本邦の暴力革命の分水嶺だったのだろう。人民戦線は公安にボロ負けする(以降の火炎瓶を銃器に持ち替えての過激化泥沼化は『天使の恍惚』で描かれる)。そして運動家の吉沢健は兄の警官戸浦六宏に三角関係でもボロ負けする。警官は殺しても死なない。人民戦線は必ず負けるのだった。

兄弟喧嘩の最中に戸浦を射殺してしまう武藤洋子の件、とつぜんの事件発生を銃声一発で示すのが素晴らしい。そして逃亡、武藤は泣き続けて後悔を語り続けるのだが、告白は少しずつ変化する。吉沢は観客同様、彼女の発砲は暴発事故だと思っていたが、故意の射殺ではないかと疑われ出す。この決定不可能性。そして女は勁くなり、全裸で抱き合う藁草のうえで私はこれを望んでいたのだと狂ったように笑い出す。このとき「姉さんを革命的に勝ち取った」と叫んでいた吉沢の革命は成就したかに見えた。

道行は青森に至り、ここで山谷初男の、出身地から逃亡すると罰せられるという訳の判らない因習にふれて青函連絡船に乗り、ふたりの故郷の小樽を目指す。殺しても死なない警官の戸浦が現れ、武藤は叱られるがままに吉沢を捨て、馬橇の行く田舎道で戸浦にSMのように蹴飛ばされる。彼女はコンサバな父権性に弄ばれて泣きながら喜悦する古い女に戻ってしまう。吉沢は反革命的に敗退するのであった。

雪景色はどれも魅力的で、若松プロのロケハンはどれも真面目だ。あれは十和田湖なのか、裸の女を雪上で鞭打つ山谷の件は『胎児が密猟する時』を敷衍して無茶苦茶。押田推敲が赤褌姿で海から出てくるショットも素晴らしく、パティ・ウォーターズみたいな女のうめき声の劇伴が印象的。

(評価:★5)

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