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[コメント] 胎児が密猟する時(1966/日)

若松映画に共通する、ドン詰まりの状況から加害者の自滅と被害者の反撃を画策しようとする作戦立案の倫理観が、本作でもすでに認められる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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丸木戸(山谷初男)の造形の基本は、戦争しかける者の女嫌い、幻覚、ファナティズム。相手を糞袋と呼び、犬にしよう、モノ化しようとする動機がある。「犬は三以上の数が数えられず、四匹目の子供がいなくなっても気にしない」。しかしもうひとつ、赤ん坊がほしくない、出産は苦痛、母体が安楽、胎児に戻りたいというベケット風のモチベーションが半泣きで告白される。丸木戸にはこのSとMふたつの動機が併存しており、これこそが狂気の在り方なのかも知れないと思わせるリアルがある。

本編程度のエログロは当時珍しくはないから、スクリーンに卵ぶつけられたというヨーロッパでの上映の逸話はたぶん、OPのヨブ記引用によるものだろう。「何とて我は胎より死に出でし時に気息たえざりしや」。お前は何で生まれたのだと嘆かれている。それはキリスト教の文脈とは違うが、正当な引用だと思う。

陰影のあるモノクロはアングラど真ん中。階段のないアパートを女はマンションと呼び、いい生活だとお世辞を云う。風呂は四分の一円を描くタイプで省スペースが貧乏臭くて印象的だ。事務所が改装して使われたもので、5日で撮影され、大家に改装がばれて追い出されたとのこと。すでに人工授精があったとも記録されている。再見。

(評価:★4)

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