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[コメント] 女の防波堤(1958/日)

慰安婦を手始めに浮沈を繰り返すトンデモ展開なんだが笑えない。「女三界に家無し」を地で行った話で、家制度がなくなり戦後民主主義が根付かぬ端境期にこんな悲劇は幾らでもあったのだろうと思わされる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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特殊慰安施設協会(PAA)を描いて前田陽一『にっぽんぱらだいす』(64)は喜劇だったが本作は巨大なメロドラマ。ミゾグチ『夜の女たち』(48)もちょっと想起されるがキリスト教による救済などはない。

冒頭の焼野原、親戚頼って襲われる女たち。日米限らず男は黒豹(by福田元総理)として描かれるベビーブームの温床。日本人の純潔を守るための防波堤PAA設立。「昭和の唐人お吉よ来たれ!」みたいな募集広告。立川辺り(ここはロケだろう。リアルな町並)の事務所はバーになっている。すっかり仕事する気のない課長の細川俊夫の色仕掛けで進駐軍のクラブ出演に出世。

慰安所の描写は喜劇的にリアルで、ジープで乗り付ける進駐軍兵たちのアメリカンなご陽気と巨大な体躯、当時の安宿は部屋の扉などなきが如しの開けっ放しで廊下やロビーも縦断して無礼講が展開される。英語知らない彼女たちの「スマイルって何よ」がハッとさせられる。英語なんか知る訳ないよなあ。筑紫あけみの鉄道自殺は、鉄道の音だけで演出した優れもの。

普通はこのまま埋もれてしまうだろう小畠絹子、美貌ゆえの浮沈人生が始まり、米兵との結婚と亭主の朝鮮戦争での死亡、米クラブ(進駐軍の住宅の一角に立てられたアーチがひどく印象的だ)で麻薬商人鮎川浩に雇われて横浜でカジノ、ポン中でリンチされる三原葉子憐れんでの逃亡(自動車事故でついてに死んじゃう鮎川の人形使いのショットが吃驚させられるいいテク)、荒川さつきのとても偶然の救済、医師の三村俊夫に求婚されるも「子供を産んだことがあるだろう、不潔だ」発言。街娼はじめて街頭で仲間の荒川が脳梅毒(ノーバイと云われる)発病して苦しみ、野次馬を「見世物じゃないよ」と追い払う件はもう人生最悪の描写で忘れ難いものがある。

小畠は孤児院にいた米兵との娘を引き取り生甲斐を取り戻す。砂浜でPAAが潰れて零落した細川に詫びられ「二度と戦争のない世の中に」。無理気味だが特殊慰安施設協会を取り上げた映画の総括と考えれば訳の判る収束ではある。

それを云うなら、細川の転落人生もも少し見てみたかった処だが。後半は小走りの描写群だがそれゆえ飽きないという処もある。長編の原作を押し込んだのだろうか。そもそも原作は真面目なのか冗談なのかがとても気になる。いずれにせよ印象悪くないのは前述の通り。

(評価:★4)

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