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[コメント] パラサイト 半地下の家族(2019/韓国)

階級差を土地の高低で示すクロサワ『どん底』ばりの視覚表現はじめ、この天才詐欺師噺は本邦60年代の重喜劇を大いに想起させるのだが、鑑賞後の感想はまるで違うのだった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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例えば勝新太郎や伊藤雄之助、小沢昭一の詐欺師話なら、詐欺はぬけぬけと成功するか、尻出して遁走してやっぱり悪いことはできませんねと揶揄い半分の注釈で終えるか、いずれにせよブラックユーモアの範疇に収まっただろう。悪漢はいくらでもいて彼等の存在は果てしがなく揺るぎないものだった。

本作の詐欺師は弱弱しい。ソン・ガンホの快活さなど一欠もない造形が印象に残る。本作の前半は喜劇だが、振り返ると本当に喜劇だったのか疑わしくなる。水害のあと避難所の体育館で寝転んで(『グエムル』の反復か)詐欺に誘って悪かったと息子のチェ・ウシクはガンホに謝罪する。詐欺師の喜劇がこんなシンミリしたものでいいのだろうか、と虚を突かれるものがある。彼が潜伏している邸宅を購入しようというラストは見事なオチで、金に辛いO.ヘンリーの短編のようだ。私有財産制の範疇では殺人潜伏も許される、とも取れる(こんな殺人犯がいてもおかしくない)。そしてもちろん、この息子に邸宅購入などできまい。

ポン・ジュノ作品は、被害者が犯人を取り逃がすという物語を反復してきた。この仮説によれば、本作のガンホ一家は一見したところ加害者であるが、実は被害者なのだろう。終盤のタッチはそう語っている。もちろん被害を受けているのは社会からであるが、この間抜けなブルジョア一家に刃物を向けても社会はビクともしないのだった。

ただ、彼の傑作群と並び称すべき作品とは思わない。理由はふたつ。ひとつは映画としての淡泊さが喰い足りない。カット尻の撤収の早い編集でサクサク進んでコクがないのだ。半地下の住まいはいいセットでむき出しの便所が生々しく、ここと邸宅の地下室がシンクロする件が本作のひとつのクライマックスだろう(滝のような石段が印象的)が、どうにもあっさりしている。『オグジャ』と同じ印象で、近年のハリウッドの悪い処が感染しているとしか観えない。『ほえる犬はか噛まない』の、あのしつこいしつこい地下室の描写が懐かしくなる(なお、冒頭の噴霧器も同作が想起される)。

もうひとつは登場人物の交通整理が巧くいっていない。インディアン志望の息子チョン・ヒョンジュンは元お手伝いのイ・ジョンウンと携帯でやり取りしている、とは何だったのか。息子は雨中のテントから街灯照明の明滅による地下からのモールス信号を見ているが、この断片も回収されない。その他、途中まで魅力的な人物が多すぎて、彼等が一時にいなくなるものだから、纏りのない収束という印象になっている。まあ、死ぬってのはそういうことなんだろうけど。

娘のパク・ソダムの造形はもうひとつ定まらない。一方、ブルジョア奥さんのチョ・ヨジョンのコメディは良好、胸触ってきた亭主への突然の「時計回り」という指示が良かった。古典的にピン送りを繰り返すキャメラは好感。

(評価:★4)

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