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[コメント] お加代の覚悟(1939/日)

アッと驚く田中絹代19歳の『西鶴一代女
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







成さぬ恋を芸に託して踊りまくる、という中篇は企画としては簡単なものだっただろうが、この踊りが圧倒的に素晴らしい。この舞、何という踊りなのだろう。「とうじゅうろうさま」という科白があるから「藤十郎の恋」なんだろうか。子供たちが小悪魔よろしく田中絹代を縄で引っ張りまくる演出は奇怪なもので、踊りのレベルの高さを素人にも伝えてくれる。踊りに長尺ふんだんに使うのが素敵で、失恋の哀切を伝えて気高く美しい。収束の物語が払底した後にもこの舞だけは残る、と思わされるであり、オチをどうつけようか毎度悩んでいる映画を軽々と凌駕している。

ここだけでなく、全体にもいい映画だ。三宅邦子との早口でのやりとりは尺の関係だったのかも知れないがいいコメディで、上原謙にカメラ向けられて慌てて踊り出す絹代の一瞬のコケットリーがいいし、中盤のレコードに崩れかかって上原を想う絹代のショットもとてもいい。

戦地に下駄を送るというギャグもあるが、日本兵の精神力を無邪気に褒めること自体がギャグのようでもある当時の紋切型。日中戦争の最中、三宅は戦地の亭主を思い続けている。ここにはイロニーなど何もないのが絹代の一心な舞と一対をなしている具合である。老醜を晒す『西鶴』の撮られた戦後にはあり得ない描写なのだろう。なお、田中絹代は当時30歳、19歳は役処。いやあ、いい舞でした。

(評価:★5)

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