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[コメント] 僕はイエス様が嫌い(2019/日)

挑発的なタイトル(と英題)を頭の片隅に置いて鑑賞することになり、結末は多義的な解釈が許容される。私は反転した敬虔な作品と受け取った。撮影は邦画近年の傑作。
寒山

**ネタバレ注意**
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撮影がいい。私の観たここ数年の邦画のなかではピカイチである。北欧辺りで撮影賞取ったらしいが当然だろう。撮りたい画を周到に準備してそれを撮っているのだという意欲が全編に漲っている。ピンボケストレスが殆どないのが単純に嬉しいし、構図の才は疑いもなく本邦トップクラスだ。別荘でココア呑むブランコの件や、和馬君が車に轢かれる坂道のサッカーの件の構図など抜群である。障子の穴開けの反復に始まり、雪上のサッカー、フラフープにゼスチャーゲームに人生ゲームと、アクションで語る姿勢が徹底されているのが小気味いい。

別荘の庭での二人の戯れはとても美しく、和馬君の瀕死を見て病院を去る由来君を斜め正面から追う長い長い移動撮影は心に沁みる。ピアノやオルガンだけによる宗教音楽がとてもいい。印象的な教室の廊下のローアングルは終盤に突然俯瞰になり、食卓も同様の処理がされる(神の目線への移行という含意が感じられる)。家庭を暖色、教室などを寒色に振り分ける色調整やラストのドローンなど、狙い過ぎの気もするがよく撮れているので文句の云いようがない。私的ベストショットは教室の窓から眺める流星群の件で、昔のスクリーンプロセスを想起させるCGがとても品が良かった。

監督はロイ・アンダーソンが好きらしく、そう云われれば間の抜けたキリストの立ち居振る舞いなど影響大と見て取れる(神社の賽銭箱のうえをほっつき歩いているのが好きだ)が、撮影はあの神経症的な絵面と通底しつつ、大らかな処にオリジナリティがあるのがいい。現代調のスマートな編集も決まっている。全編漂う品の良さは、監督は青学幼稚舎からのエスカレーター組らしく筋金入りなんだろう。こういう世界の覗き見体験としても単純に面白かった(青山学院はプロテスタントのメソジスト監督教会系列。なお、誠にどうでもいい話だが、私は高校の進路指導で偏差値だけ見た教師から青学はどうだと云われて、そんな高級な処へは通えませんと言下に断ったことがあったのを思い出した)。

終盤、由来君の先生への「お祈りしてもしょうがなかったですね」なる反抗と、肝心なときに姿を消したキリストの叩き潰しでもって、映画はキリスト教への批評を主題としているだろう。色んな解釈ができる処だが、私は由来君の自己批評に至ったのだと取りたい(それはお祖父さんのヘソクリで花を買ったときに起こったのだった。そして一度書きあげた弔辞を消しまくる)。ぽんしゅう先輩の「願い」と「祈り」の差異というご指摘は卓見で目から鱗が落ちた。私なりに解釈すれば、由来君の小さなキリストは転校少年の孤独が生み出した現世利益の神であり「願い」に他なるまい。少年だけに見える英雄、というアニメなどでよくある設定は、親の保護から切り離されつつある思春期の子供にとって共感の容易な、ありふれた具象化だろう。映画はこれを断絶させる。

成功体験(の連発ギャグ)を積み重ねた由来君にとって、和馬君救済の「願い」は叶うはずだった。一方、先生や牧師にとってそれは「祈り」であり、バビロン捕囚やヨブ記の失敗体験が凝縮された、「願い」とは別の何かなのだ。そしてその中間に、信者であり別荘で陽気に笑ってばかりいた和馬君のお母さんの悲痛な姿があった。老大家の回想記を想わせるノンシャランなタッチの映画だが、思い返せばそれぞれの人生が深い(例えば先生は機械的な職業人と解することも可能で、観客毎の視点を受け入れる余白がある)。肝心なときにいなくなる神とは人生そのもの、の感慨を覚える。

和馬君のお母さんに指名された弔辞において、由来君は流星群の目撃の奇跡を否定(忘却かも知れない)し、和馬君との再会を誓う(「それまでにサッカー上手くなっているからね」)。彼は前者で現世利益の「願い」を否定しつつ、後者で「祈り」の世界に踏み込んだのだと受け取って感動した。二人が再びサッカーに興じるラストショット(由来君は上手になっている)は障子の穴から覗かれた「祈り」の世界(お祖父さんも信者だった)、そこはもう現世ではないのである。子役ふたりもとても良かった。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)ぱーこ[*] 死ぬまでシネマ[*] ぽんしゅう[*] けにろん[*]

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