コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ブラック・クランズマン(2018/米)

國民の創生』と『風と共に去りぬ』とトランプを並べて撫で切りにするという誠に痛快な映画。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ペンタゴン・ペーパーズ』を想起させるさらりとした一筆描き。この尖っていた監督も60越えなのだとの感慨もある。警察の告発かと緊張させておいてそうしなかった、という処に作劇の重点があり、黒人と白人、ブラックパンサー党と警察の融和が謳われる。それほどまでに白人至上主義=トランプは驚異というスパイク・リーの現状認識なのだろう。そんななか、ラストの白人が被害者であるデモへの車両突入事件がセレクトされている。

同じ警察内でもKKK内でも、過激だったり真面だったり政治的だったりと色んな人間がいるものだ、という描き分けがあるのが単純化を回避していて巧みな処。技法としては、スパイものならではのバレたんじゃないかの緊張の走る局面で、顔を見合わせたり目を背ける中での長い沈黙、という宙吊りのシーンが何度かあり、これが面白かった。自分の亭主を吹き飛ばす間抜けな爆弾攻撃をクライマックスに、画面の二分割連発や全体の軽いテンポも含めて、振り返れば余裕のコメディ。余裕を持て、が本作の主張と受け取った。しかし一方、本作のベストショットは序盤のブラックパンサーのやたらアツいアジ演説だろう。

KKKについては幾つも穿った処がある。黒人爆撃を前にした嫁さんの発言「これは第二のボストン茶会事件よ」は、アメリカという国の成り立ちには暴力があるのだという(デリタと同じ)禍々しい認識がある。彼等の武器マニア振りもリアルなもので、存在は意識を規定するの恐怖がある。例のマスク被った儀式は怖いし、肥った変な奴もやたら怖い. 私は70年代にKKKが秘密組織化していたのも知らなかった(町中うろうろしているのかと思っていた)のでいろいろ勉強になった(しかしすると、新聞に募集記事出しているという冒頭はどうなのか疑問なのだが)。なお、基本的人権を全否定するKKKを劇映画は「公平」に描く必要など全くなかろう。日本第一党やN国党、オウム真理党を「公平」に描く必要がないのと正確に同じである。

かつての名作が時代の認識により相対化されるのは世の常。シェークスピアだって黒人やユダヤ人を悪し様に描いたのであり、割り引いてなお価値があるから今でも観られている。『國民の創生』や『風と共に去りぬ』は21世紀にも愛され続けるだろうか。映画史と風俗史のなかでしか語られなくなるだろう、とは希望的観測だろうか。これをマイナー映画(ドゥルーズ)の視点から明快に指摘した点で、本作は後世に残ると思われる。グリフィスは『國民の創生』によるKKK再興を悔いて、中国人青年を主人公にした真の名作『散り行く花』を撮っている。グリフィスが現代も尊敬されているのは後者や『東への道』『嵐の孤児』を撮ったからであり、前者ではない。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。