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[コメント] カメラを止めるな!(2017/日)

すでに2018年を代表する作品な訳で、幾らかでも尖った内容ならいいナと勝手に希望して観たのだが、残念ながら希望は充たされなかった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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私は最初のゾンビフィルムが面白かった。浄水場の廃屋というロケーションはとても優れており、キャメラは高低差を巧みに活かして見応えがあった。なんで皆さん不評なんだろう。たぶん私がゾンビ映画を数観ていないからなんだろう。

以降の展開は、そのユルい笑いは趣味なのだが別にどうということもなく喜劇旅行シリーズ程度。とつぜんベタになる撮影もこの感想を惹起する。大笑いできるのは発狂する奥さんだがネタは常識的、なぜ笑えるかと云えば日常描写の肉付けがあったからだろう。酔っ払う小父さんや腹下す青年にはこれが足りず(後者はイヤミキャラへの報復になってしまった)、俳優も魅力がない。伴淳やフランキーなら飛び入りでも笑わせただろう。

反復の作劇は『愛してる、愛してない…』や『運命じゃない人』を想起させる(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』も)が、フィルム・メイキングに特化したのは新しいのだろう。私は草創期の生中継だったテレビドラマを想起して興味深かった。もちろん観たことはない。黒柳徹子のエッセイなどにヒヤヒヤの即興切り抜けなどの回想があり、これを思い出したのだった。本作も参考にされたのではないか。

使われなかったネタが幾つか気になった。最初の「屋上に血糊ありったけ上げろ」という監督指示は、即興での脚本変更で説明がつくが、キャメラについた血糊を拭う件と一瞬のキャメラ目線、及びヒロインが小屋でゾンビに噛まれたらしい足首の傷のメイクを剥がすショットは、何だったのかよく判らなかった。

ラス前に監督が殺されるクライマックスを血糊飛散だけで示すのは、CSなのに放送禁止ということなのだろうか、そうだとしたら随分なゾンビ・チャンネルである。ラストのクレーンは視覚的にまとめていいネタだったが、キャメラを持つのが監督の娘で、途中でキャメラを奪うキャメラマン志望の眼鏡の助手ではないのは大いに外していると思う。このふたりの肉付けも甘い。

感動げな収束は平凡、このインディーズ産で観客に評価された作品が、家族愛しか謳うものがないのかと残念である。さらに、ヒロインの満足げな微笑みは何を指して微笑むのかよく判らない。撮影が終わって良かったねコミの業界愛なんだろうけど、それがどうということもない。総体、ハイ判りましたねと作者が神の如く示し続ける終盤にドラマ性はなく、作者の意図をはみ出す主題の膨らみもありようがない。本作の達成感はテレビゲームに似ており、愉しさはその範囲に留まる。テレビゲーム的という処で時代のニーズを反映し、『レディ・プレーヤー』と並んで2018を代表する作品となるのだろう。映画ドキュメントではないことを含めて、本作は映画によく似た何かであり映画ではない。

二度、町まで出かけて満員で入れず、明日が楽日になってようやく観れた。二百人ほどの客席は満員。笑いは三分の一ほどから出ていたが、こっちが笑えなかったからかも知れんが、流行だからとヒステリックに笑っているげに聞こえた。しかも家族ネタの業界ネタ。匿名の客席と共感を分かち合う内容ではなく、劇場で観たからどうというものでもなかった。

(評価:★3)

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