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[コメント] 海を駆ける(2018/日=仏=インドネシア)

その場の思いつきでキャメラを廻し続けたとしか思えない貧相さ。『淵に立つ』の変奏だがこれでは前作が可哀想だ。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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淵に立つ』の変奏作でありディーン・フジオカは浅野忠信を引き継ぐ。しかし悪意が実に生産的だった浅野に対して、本作のフジオカはまるで的が絞れていない。最後には植林作業に勤しむ鶴田真由をポアし、子供四人を溺れさせるのだから、無慈悲な津波災害の隠喩としてあるのだろうが、その割に子供を助けたりして行動に一貫性はなく、彼の行動が何で太賀ほか計4人を最後に海の上で喜ばせるに至るのか、得心させてくれるものは何もない。本作はいったい何が云いたいのかと、労力使って解釈したい気に全然させてくれない。あれよあれよのいい加減さだけが残る様は、ひと昔前の超能力系アイドル映画と同じだなあと思うばかり。要は呆れてしまった。

エッセイ風の展開は『ほとりの朔子』の作者らしいと云えば云えるが、件の4人のラブストーリーはだらだら長いうえに余りにも温い。繰り返される漱石ネタはまるで笑えず、こんなもん、友人の結婚式の暴露スピーチなら面白かろうが、客から金取って見せるネタではない。海外交流は善意の現れと受け取るにやぶさかではないが、もっと上手くやってもらわないと退屈で死んでしまう。キアロスタミぐらいの才覚があるのなら話が退屈でもそこに何がしかの発見があろうが撮影もダルい。二度あるテレポーテーションにはハッとさせられるが、面白いのはそこだけという出来は、やはり昔のアイドル映画並みである。『愛、旅立ち』とか。

序盤、フジオカを民家に泊まらせるのも強引な展開(何で行政は引き取らないのか)で、他にもカーテン張らない暗室など、ヘンテコな展開が蔓延して観る気を失せさせる。これらは文化の違いなのかも知れないが神経の行き届いた説明は皆無。そしてその割に文化を感じさせる画は殆どなく(夜明けの読経の件ぐらい)、インドネシアで撮られているのをしばしば忘れてしまう。阿部純子の粉骨が父親という設定も意味不明、なんで占領軍にいた祖父という設定にできないのか。文化衝突が怖くて「未来志向」に粉飾しているように見えてしまう。脚折ったお父さんもまた意味不明、訴えるものは何も届かず、これではインドネシアに失礼ではないのか。なまじっか鶴田と太賀が上手いものだから、他の下手糞な役者との演技の乖離が露骨なのも辛い。なんでこんなもの撮ったの、という疑問だけが残る。

(評価:★1)

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