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[コメント] 妻よ薔薇のように 家族はつらいよ III(2018/日)

西村まさ彦に一票
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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思えば「男はつらいよ」シリーズに離婚噺はなかった。博とさくらにも、おいちゃんとおばちゃんにも(マドンナにはあったけど。大原麗子と米倉斉加年とか)。山田洋次は撮りたかったのに、松竹からジンクスがどうのと云われて断念してきたのを、今回は高齢の神通力で押し通したのではないだろうか。いやこれは私の勝手な想像に過ぎないのだが、そう思うと面白い。回は三回、各キャラも板についてきて秘蔵ネタを連続ものに叩きつけるには頃合。

戦後の脱封建社会で、離婚の危機に一度も直面しなかった家庭は少なかろうと思う。誰もが身につまされる話というなか、ヘソクリとフラメンコというとても間抜けかつ微妙なネタを振り、夏川結衣には当たり前の芝居に終始させている。ナルセなら陰翳深く掘り下げる処だろうが、コメディにそれは不要とばかりに山田監督は実に平凡に撮る(彼女が家を出るという愁嘆場を見せない選択も効いている)。力点は彼女にはない。ただ出生地で見せる逞しさばかりが印象的。

そして見処はもう西村まさ彦。身から出たイヤミは次第にドン詰まり、ついには夏川の実家に駆けつけて見せる一瞬の泣き笑いに不覚にもホロッとしてしまった。ドラマツルギー上こうくるのは予想されねばならなかったのだが、前二作から積み上げられたイヤミキャラに煙幕を張られてこの展開を想像できなかった。誠に周到、このワンカットのための三作であり、山田監督の作戦勝ち。最後には主題は反転し、妻夫木聡のフェミニスト振りはある種戯画化され、西村が人知れず香港で苦労している方が大変で可哀想に思えてくるのだった。これも思惑通りなのだろう。上手いものである。夏川もこれに惚れ直すのだろう。

家族が馬鹿の倍音を発するテクもシリーズ重ねて堅牢、西村がシリアスな立場になると橋爪功に馬鹿をさせる呼吸も、お墓は別にと提案する吉行和子の波風立てるボケ(夏川の忍従の果てというニュアンスが込められている)も素晴らしいし、どさくさまぎれに風吹ジュンを家に上げるイタズラもいい。前二作はクライマックスに笑いを叩き込もうとして力みが見えたが、流れるように収束に至る本作は自然でいい。観る前は、シリーズものだから離婚が成立することはないな、読めちゃうな、と思ったものだが、観終えた後はそういう勘ぐりはどうでもよくなった。これでいいのだ。

本編の純度が高いので蒼井優の各件は違和感が残る憾みがある。長男坊は下手でいかんが、次男坊の眼鏡君は好感。藤山扇治郎は今回はいい笑いが取れていた。ナルセ作とはほぼ無関係(思えば夏木マリが寺尾聡を宮崎美子にとられる『寅次郎の休日』は途中までそっくりな話だったが)。松竹追い出してPCLで撮られた傑作のタイトルを冠する思惑は何なのかよく判らない。多分深い意味はないのだろう。ただ、最後にはタイトルの意味が中和されてしまうニュアンスは似ている。

試写会で観せて貰ったのだが、高齢者が千人ほど埋まった観客席は笑いが絶えなかった。林家正蔵がずっこける度に爆笑が起き(これで笑うんですかと私など驚いてしまった)、鶴瓶登場では歓声が起こり、最後は拍手。昭和の映画館みたいで実に雰囲気がよく、毎回こうならリピーターになりたくなるほど。こんなファンを持つ映画監督はもう出ないだろうなあと感慨を覚えた。

(評価:★4)

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