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[コメント] スリー・ビルボード(2017/米=英)

ブリティッシュ・ジョークで切り刻まれるミズーリ州
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最近のハリウッドは何かシニカルな作品が多いなあと書きかけたら、イギリス人の監督と知って納得したことだった。

黒人以外でもリンチする警官のサム・ロックウェルと、全国民のDNAの採取を要求する被害者家族のフランシス・マクドーマンド。アメリカ中西部の戯画である官民双方の代表がどんづまりの勝負を繰り広げる。「黒人・ゲイ嫌いを全員辞めさせたら警官がいなくなる」なんてのも戯画なのだろうけど、ある程度はリアルなのだろう。それがどの程度のものなのか、とても気になる。本筋より気になるぐらいだ。

ブリティッシュ・ジョークは、情け容赦のないシニカルに胸焼けがすることが多いので私は苦手(そんなイギリス映画は山ほどある。ヌーヴェルヴァーグだってドーバー海峡渡ればトニー・リチャードソンになったのだ)なのだが、本作は中盤、このままシニカルで押し切るのだろうという当方の嫌な予感を裏切って方向転換を始める。ロックウェルが犯人と目星をつけた男に掴みかかる件で、ラジオから「オールド・デキシー・ダウン」が流される。南北戦争敗戦を南部から歌った歌である。もう終戦にしようよ、と映画はロックウェルに提案している。このタッチは嬉しい。

さて、その男は犯人ではない、と判明する訳だが、部長は彼のアリバイについてロックウェルに謎かけをする。「(行き先の)ヒントは砂っぽい国だ」。映画館では私の周りにも欧米人がいて、彼等に本作は大してウケていなかったのだが、ここだけは爆笑していた。映画で答え合わせは行われない。

これは何なのだろう。真犯人じゃなくてもいいやとラストで二人は彼を追う訳だから、ひとつ重要なポイントに違いない。まあ多分、砂漠のあるメキシコなのだろうけど、すると何なのかが判らない(どうせシニカルな話だろうと想像はつくが)。その他、判らないことは幾つもあり、音楽にしても、なぜ「庭の千草」が二度流れるのか判らない(「チキチータ」は多分内輪ギャグだろう)。町山先生に訊ねるしかなさそうである。まあ、判る人にだけ判ってもらえばいいもんという内輪ネタは、ブリティッシュ・ジョークの常套手段ではあるだろう。

そして二人は偽犯人を追いつつ、もう飽和状態、どうでもよくなったわ、という処で映画は終わる。マクドーマンドが特に反省もしない、あるいは反省する寸前という匙加減は巧みなものだろう。しかし巧みなだけの肩すかしという気もする。物語の鋳型に嵌るのは避けられた(オレンジジュースだけは定型に至っていて、しかしこれはたどたどしい)が、これを避けては何も云ったことにならないということもある。

マクドーマンドは見ているだけで飽きないいい俳優だけど、旦那の映画のほうが(テイストが似ているうえに)インパクトが上回る。それは本作が鋳型を避け過ぎたからじゃなかろうか。突然の警察署爆破は『ブルース・ブラザーズ』(キャリー・フィッシャーがジョン・ベルーシをミサイルで狙う)など思い出したが、後者のような笑いに欠けるのも弱い。看板並べた画の展開に面白味はあるが、特に映画としてどうこう云いたい箇処も見つけられなかった。

(評価:★3)

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