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[コメント] 女ひとり大地を行く(1953/日)

基本、炭坑組合史映画だが、興味深いのは朝鮮戦争批判の件。これをアホの映倫がブチ切っているのだった。オリジナル版164分は現存するらしく、すると私の観た短縮版では観たうちに入らない。
寒山拾得

Wikiには短縮公開版は132分とあるが、私の観た16ミリは138分あった。アホの映倫が切ったうち6分間だけ戻っているのだろうか。アメリカ兵を炭坑幹部が接待して増産を約束する件と、組合集会で宇野重吉が問題は増産による朝鮮戦争への戦争協力だと指摘する件で計6分なのかも知れない。

組合は平和憲法下での参戦反対な訳だ。これはひとつ当然で、朝鮮戦争で戦後復興という恥ずかしい事実が常識化しちゃっている平和国家とは滑稽であり、当時そういう声は上がらなかったのかずっと疑問だったのだが、こういう形での主張はあったのだと知って溜飲が下がるおもいだった。

さて、アメリカの云うことも判る。アメリカ(国連軍)を支援しないということは、即ち中国軍を支援することになる、という論法は成立するだろう。冷戦のアポリアであり、吉本隆明の反核異論もこの線で書かれたものだった。本作は中国労働者(加藤嘉ら)との共感を示しているから、総評は中国寄りだったのかも知れない。

しかし、少なくとも映画は主張どおり完成させて、そのうえで議論するのが当然の筋道であり、そうせずに検閲で朝鮮戦争に係る箇所を32分削除した映倫はアホと呼ぶに相応しい。異論を許容しない態度はファッショのものである。

その他の炭坑組合史に驚きはないが、貴重な資料だろう。物語部分は何ということもないが、山田五十鈴のような女工もいたことを記録したこと自体に価値があるのだろう。北林谷栄のユーモアが全編を引っ張っている構成がいい。

戦後の闘争の件では下部からの意見を上層部があっさり採用する訳で、こういう風通しの良さをその後も確保できていれば労働組合も違っただろうと思わずにいられない。最後に歌われる「若者よ」は『日本の夜と霧』でイロニーに晒されることになる。

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