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[コメント] 善人サム(1948/米)

ゲイリー・クーパーの円熟した喜劇とクリスマスの雪の夜の行進、器は素晴らしいのだが内容が伴わない。マッケリーの宗教映画はどれも微妙に外している。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







クーパー中盤の「(妻に)相談するとは自尊心を捨てることだ」という科白から、話は夫唱婦随の主題横滑りしてしまう。妻のアン・シェリダンの夢は豪華なマイホームという処で宗教的にはすでに勝敗はついているのだが、これがガソリンスタンドの一攫千金と銀行融資で決するのは、純粋な喜劇なら結構だが倫理的な物語には相応しくなかった。これでは奥さんが可哀想、という感想が興味深い主題を曇らせている。善人の受難はもっと別様に示されるべきじゃなかったのだろうか。

喜劇は快調。教会の献金の皿落としてしまう件は落としたクーパーを映さず家族のリアクションだけ見せるのが上手いし、終盤のバーで救世軍の献金皿蹴飛ばすクーパーとの対照で見事に収まる。ショエリダンの悲惨な展開に係る笑い上戸や、不本意なジプシー衣装を示された次の件ですでに着衣している展開など達者なもの。

前半の善人クーパーと厚かましい人たちによるギャグの飛ばし合いは奇妙な空気感に独特の味がある。前半の自動車修理工夫婦と、後半の奢って貰ったのに善人面するなと怒るバーの酔客。しかし、だからこそ、「みんな君が好きだ」という「善人」全肯定の纏め方が退屈に思えてしまう。 なお、おかしな件が何か所もある。隣人の自動車事故の訴訟とかギルモアさんの葬式とか、回収されない前振りは喜劇だからいいという判断なのだろうか。出て行くと云う恋人のジョーン・ロリングがまだ家にいるのにガソリンスタンド屋と呑みに出かけてしまう弟君の演出は明らかに間違いだろう。私的ベストショットはクーパーを襲う女を街角の遠景でチラリと見せるショットで、ラングのような一瞬の禍々しさがあったが、これもまた全体の収まりが悪いという気もする。

(評価:★3)

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