[コメント] しあわせな人生の選択(2015/スペイン=アルゼンチン)
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自死へ向かう者はナルチシズムを漂わせる。『鬼火』みたいなもので、リカルド・ダリンは公言するのだからなおさらだ。俺は死ぬぞと地球の裏側のハビエル・カマラを呼び寄せて、主治医ほかあらゆる段取りに同伴させ、ついには愛犬を押し付けるように譲る。カマラほか周囲の人物は拱手傍観。自己中の愛すべき自死者に好きなようにさせてただ見守るだけ。
いかにも面白そうな話なのにまるで盛り上がらない。ダリンは自己中のユーモアを醸し出そうと努めてはいるが全般に空回りしている。例えばジャック・レモンがそこにいれば一流の作品に仕立てただろう。
周辺人物も役不足だ。余りの緊張からドロレス・フォンシと同衾に至るカマラ。ここに同情すべきユーモアは何も感じられず、ただ中年の美しいとは云い難いセックスがあるだけだ。それともユーモアなど念頭にないのだろうか。その他、やたら別れのハグを繰り返すばかりのお泪頂戴に至ってはお話にならない。
反語的な邦題に引かれたが、この悪意の欠如はブニュエルから遥かに遠い。自死はキリスト教に反するもので、カソリックの強いスペインでは相当の抵抗があるだろう。アルゼンチン人という設定に複雑なものがあるのかも知れず、特に説明もないから私にはそれを読み取る能力がない。しかし本作にブニュエル的な反キリストの緊張感など全くないのは明らかで、その他何がしかの倫理観を吟味する手続きは皆無に近く、ただ辛気臭いメロドラマが漂っているだけだ。それならこの我が儘なナルシストには付き合う義理もない。象が墓場へ向かうように人知れず消えてゆくのが美徳というものではないのだろうか。
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