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[コメント] 夜の流れ(1960/日)

北村和夫の大傑作。怒気迫る虚脱感とでも云うべき抜群の造形で、この貧乏神の通る場所だけ画面が翳り暗雲が立ち込めるのだった。全体には開き直りのヤケッパチ版『流れる』の趣。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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黙ったままゆっくり倒れて行く『流れる』に対して、本作の料亭はぶっ倒れるにしても抵抗の姿勢を見せる。ヨロメキまくる山田五十鈴はヨロメイたまま神戸へ飛んじゃうし、司葉子はヤルセナく神戸へ逃走する戦争傷病者三橋達也を、いつまでも戦争に甘えないでよと叱りつけ、金儲け宣言をして芸子になる。コメディが印象的な水谷良重は金持ちのボンボンにビールぶっ掛ける。

序盤の司・水谷の「露営の歌」の行進で始まり「聞け万国の労働者」の行進で終わる宴席乱入は傑作で、「善人はこんな処にはいないわよ」なる志村喬へのイタブリは劇中の通底基音となり、娘の白川由美を芸子にして親の志村に泡吹かせたりして収束へ至る。「芸者っていい商売よ」とあっけらかんと司を煽る白川のサバケっぷりがヤルセナさを相対化させている。

そんななか、本作の悲劇を背負うのは金欠病の北村と草笛光子の腐れ縁夫婦。無理心中に至る駅ホームの撮影は見事に冴えており、ここが本作のベスト。北村が宝田明を惨めに脅す土手の描写もいい。本作、要は屋外ロケが時間不足で川島に振られた、ということらしく、だからこれらは川島の手柄なんだろう(ナルセの撮ったシーンで自分が褒められて苦笑い、という川島の回想が残っている)。

なお、ガス自殺した飼犬の件も並んで悲劇だが、市原悦子の連続自殺未遂の描写は生半可でよく判らず(三益愛子の突っ込みは笑えるが)、ここは明らかに難。彼女の弟はどうしたんだろう、よく判らなかった。

カット尻がナルセにしては短いのは、(彼にしては)派手で賑やかな内容に編集を合わせているのだろう。そういうこと考えるんだなあと思った。

(評価:★4)

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