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[コメント] 薄氷の殺人(2014/中国=香港)

外連味が果てしなく後退したウォン・カーウァイ
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







空瓶が転がったり逮捕の件を長回ししたり突然狂ったようにダンスしたり花火があがったり、ウォン・カーウァイの映画で見たようなシーンが連発される。別にそれが決まっていればいい後継者の登場と喜んだらいいことだし、実際、町まで続くアイススケートリンクの件は、シュールで抜群に素晴らしい。直前にアパートに馬が闖入する件が挟まれていることから、そうかあれはキートンなのだな、こういう怪しい中国のメビウス都市の描写がこの後も連発されるのだなと身を乗り出したのだが、この期待は裏切られることになる。

本作は、ミステリーの謎解きとウォン・カーウァイは水と油だという失敗例と云わざるを得ない。カーウァイの扱ったのは恋愛とか停滞とか逃走とかに係るとても単純な感情であり、それを深掘りする果てに、あのような斬新な映像があったのだった。一方本作は複雑な事件の経過を説明する必要から、映像で何かを深掘りする余裕がなくなってしまっている。外連味ショットと普通のショットとの温度差があり過ぎて、これがとても退屈だ。

そのミステリーも、判決が下った後の真相という『妻は告白する』の類型だが、このパターン最近多過ぎて、またかの感が否めない。主犯の妻が言い寄られた刑事のために共犯の夫を売ってしまってその挙句に刑事に裏切られ、裏切った刑事はフレームの外で気がふれる。そしてエンドロールの曲が(字幕がなく歌詞が不明だが)やけに陽気なのは、やっぱりカーウァイ系列だが、残るのはシニカルな印象ばかりで感慨は薄い。刑事の打ち上げる花火(CGがショボいのがまた辛い)を妻はどう見上げるのか。フロイト流に射精の象徴、といった処だろうか。男って射精するときだけ威勢がいいのね、という。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)死ぬまでシネマ[*] 煽尼采

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