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[コメント] 私の男(2013/日)

大島渚田中登を継承する、淫蕩による画一化の批判。標的は災害=絆という公式か。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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この親子の社会常識は津波でさらわれたに違いない。後には神代の代まで遡る地平が広がっている。「正論」を叩きつけるような花の語り口は神憑り以外の何者でもなく、殺人も放蕩も追放される神のように許されている。

本作でもっともこの監督らしい酷薄は、家族の遺体を蹴飛ばす花の件だろう。その花が何と「家族をつくりたかったのよ」と云う。それはどうやら血を還流させ続ける家族、繋がらなければ「あんたでは無理だ」となる家族であるらしい。私には昔の村内で一族をなす血の濃い親族関係の激しいものが漠然と想像されるばかりだ。

確かなのは、こんな親子に地域の絆もへったくれもないことで、被災から始まる物語をこれほど閉鎖的に展開させる、この作家の悪意は凄いものがある。たまたま阪神淡路大震災から20年の日に観て、唖然とした。唖然としたが、正しいとしか云いようがなかった。絆より大事なことはあるし、あるはずだから。

汚物まみれの一軒屋などの描写はバタイユ系列、ここで濡れ場が始まるとさすがに何を今更となる所だが、綺麗な娘の部屋との対照で相対化されてある。服を脱げと高良健吾が迫られる件は爆笑もの。なんと云う訳の判らない価値観だろう。

本作、流氷の件の描写が弱いのが最大の欠陥で残念。『東への道』以来の一大テーマである訳だが地味、被災や殺人の熱のこもった撮影との解離が甚だしい(私の感覚では、冒頭の花登場はカットを分るべきではない)。あと一軒家を担保にしてでもアンゲロプロス級に撮ってほしかった。無責任な話ですが。確かに、本気度を欠くブラもいけない。

(評価:★4)

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