[コメント] アクト・オブ・キリング(2012/デンマーク=インドネシア=ノルウェー=英)
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このアンワル・コンゴという男、自分達の「活躍」回想の映画化のなかで悪夢を語り始め、被害者側をマゾヒスティックに演じ(孫に誇らしげに見せたりする)、最後は胃痙攣を起こすに至る訳だが、この変容が何故にして起こるのかがさっぱり呑み込めない。
彼はどれほどのイスラム教徒なのだろう。国際的な情報はどれほど入手できるのだろう。組織の幹部として過去の汚点を墓場に持っていく「覚悟」はどれほどのものだったのだろう。そのような人物の背景が語られないため、この映画の製作中に何が彼を変えたのか、さっぱり判らないのである。まさが映画の神様が彼を変えた、などということもあるまい。
もちろんドキュメンタリーは撮れる範囲で纏めて投げ出すべきものだが、なぜか本作は結構が整い過ぎており、この巨悪の存在が回心のメロドラマの物語にずっぽり収まりつつ、あれよという間に随分と大人しい善人になってしまって呆気に取られるのである。私も西洋向けの演技ではないかという疑いを持ってしまった。何とか副大臣の指示で胃痙攣のふりなどして、腹の中で舌を出しているのではないだろうか。この男、そのくらいやりそうではないか。
そんな邪まな感想を呼ぶのは、いかにもスムーズ過ぎる編集のせいでもあると思う。優れたドキュメンタリーの編集は大抵ぐちゃぐちゃだ。撮影現場の事件性を尊べば、そうなる必然にあるからだろう。
判らないといえば、ディバインみたいな太っちょのキャラは、インドネシアでは風俗的に何か意味があるのだろうか。これも謎として残った。
製作された映画は実に退屈そうだが、最後の決め台詞らしい「天国に連れて行ってくれてありがとう」なる被害者側の論理は、本邦の「ポア」との類似が興味深いというか気持ち悪いというか。暗殺方法は模倣犯が出ないか心配になった。
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