コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ほとりの朔子(2013/日=米)

大竹直の変態大学教授と太賀の梓みちよが傑作。高校生がMP3にこんな曲入れているというナンセンスがいい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







アンチロマンというか老大家の随筆風(日記形式だし)な話のない話で、話は盛り上がりかけるとブレーキを踏むのを繰り返す。太賀のデートは勘違いに終わり、原発反対は特殊事情で宙吊りにされ、海外と国内のどっちが大切論争も曖昧に終わる。ふたりの家出は道化師の赤い風船で脱臼する。猪突猛進を旨とする昨今の青春映画のアンチテーゼな具合で、下半身事情の交錯も含め私の苦手な藤田敏八に近い印象。この監督、近作から遡ったのだがこのタッチは意外だった。

大竹直の変態大学教授の造形はケッサクで、素晴らし過ぎて主役を喰ってしまった印象がある。「このエロ親爺」で終わるシニカルな誕生パーティの件は素晴らしい。もうひとつ、太賀の「こんにちは赤ちゃん」(梓みちよの録音ではなかった)も爆笑もので、こちらは援交救助に至るユーモアがある。このふたつの件は愉しい。

しかし、この笑いが全体の淡々とした調子に馴染んでいるかは微妙だと思う。二階堂ふみが湖に入るショットはとても美しいが、これも一点豪華主義で、他の即物的なタッチと齟齬を来しているように見える。

鶴田真由はなんでこのお愉しみの旅に姪っ子を連れて行ったのか、途中で判らなくなったのだが、まあ仕事が完成するまで自制するためということなのだろう。姪が朝帰りしても淡々としているインテリ造形にある種の生々しさがある。完成したタイミングで二階堂が帰ってくれて万々歳、という収束な訳ね。ラストの写真の件はよく判らなかったが、エロ事情がさらに複雑化した具合なのだろう。あと、自転車競走の鶴田遅刻の件は画で充分見せているのだから、後に科白で指摘するのは蛇足。

二階堂は舌足らずな喋りにリアリティがあり良好。9月に突入しても夏休みな浪人は息苦しかろう。受験勉強に戻る彼女は何を思うのだろう。線路歩きながら「どこへ行っても一緒だよ」と呟く太賀の敏八風な科白を受けて日常に戻ったのであれば、苦々しいものがある。このとき太賀が回想する、線路を子供が歩く映画はナルセ『秋立ちぬ』か。情けない太賀の造形は好印象、彼だけ見ればほとんどボロ雑巾状態、ヤルセナキオの世界であり、その後どうなってしまうのかと思うと居たたまれない。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)disjunctive[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。