物語は後半、綾野剛が「憐憫」されるヒステリーで面白くなるのかと思いきや、満島ひかりも似たようなヒステリーで非難合戦の平凡な色懺悔。結局、不倫話が切実にならないのは子供が介在しないからなんだろう。大人しかった小林薫の怒号をクライマックスにする程度の平凡。誰も知らないこの作家（小田仁二郎）の作品の朗読がある処など見ると、本作はこの有名な大衆作家の若かりし頃を正確に記録しようというプロジェクトに見えてくる。綾野が終盤引っ込むのも爽やかなラストも違和感あるが、プロジェクトと思えば納得させられたりするのだった。

こういう不倫話って「そのとき知子は濡れた」みたいな内面の告白が重要で、読者が知りたい処であり、それがすっ飛んでしまう映画は通り一遍になるものだと思わされる。エロ描写もなく、50年代みたい。満島の眼の周り黒くて魅力ないのが終盤に取れて爽やかに終わる、という起伏のつけ方は白々しいと思うし、彼女にしては造形も冴えない。周囲のストップモーションはいい手法かも知れないが、これが目立つほど物語に起伏がないとも見える。撮影美術は頑張っており、『カルメン故郷へ帰る』の看板引用はカラー撮影の自負に見えた。舞台は中野区大和町。