コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] かぞくのくに(2012/日)

本作は「朝鮮総連」という組織の周辺にも、生身の人間がいるのだと教えてくれる。その次に行けないものか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







今井正監督『あれが港の灯だ』(61年)に、朝鮮の娼婦岸田今日子が帰国事業の行列を眺めながら呟くシーンを思い出した。「行くも地獄、留まるも地獄」。当時としても、帰国事業は手放しで歓迎された政策ではなかったのだろう。当時、少年の井浦新が帰国を逡巡した件に、複雑さが浮かび上がる。

昔の活劇映画なら、終盤、井浦新は、北朝鮮の包囲網から大脱走を計るところだろう。かつての級友たちがわたりをつけ、津嘉山正種の親父は背中で黙認するだろう。そんな展開を期待しながら、そのように事は運ばないのは判り過ぎるほど判っている。この座して死を待つ心境には、具体的な告発の重さとは別に、テーマを超えた普遍性がある。組織の人間は大なり小なり、このような悲劇を味わうものではないだろうか。

ラストもいい。安藤サクラ が投げかけられた「自由」に対する応えは、放縦であるはずはない。本作は「朝鮮総連」という組織の周辺にも、生身の人間がいるのだと教えてくれる。その次に行けないものか。彼女はその責任を負ったのである。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)jollyjoker ぽんしゅう[*] けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。