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[コメント] 私は二歳(1962/日)

浦辺粂子の『月世界旅行』。赤ん坊が二階のベランダから落ちる件は『トリュフォーの思春期』(76)より早い。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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全ては影だったという冒頭から「ぼくは大人になるんだ」というラストまで、中村メイコの声の出演がすばらしい。「お父さんは会社へ課長という悪者を退治しに行くのかな」等々のイロニーは、浦辺を失って親から孫へという山本富士子の感慨と特にリンクもせず何か毒々しい。本作はユーモラスなアップが多用されるのだが、ラストも二歳児のアップ。人間の溢れんばかりの生命力がイロニーとともに全肯定されている印象がある。

山本が、最初はまるで意見が合わなかった浦辺と、船越英二の過失(ふたりで留守番のとき、子供がビニール袋を被って窒息してしまう)を機に一気に仲良い嫁姑になる、という展開はいかにもありがちだ。共通の敵を作る第三項排除こそ仲間の証。賢い亭主はわざとそうしたりする。こういう感情的な家庭内政治にこの子は知らずにすでに参画ているのだ。これは人間の条件である。

市川崑らしいテクは控え目だが、室内にやたらと影を落とす撮影(赤ん坊がビニール袋被る件を筆頭に)が普通の「こんにちは赤ちゃん」ものと全然違ってひどく印象に残る。私は赤ん坊の食事に一回一時間かかる、貴方は会社での実労時間は四時間ぐらいだろう、という山本のシャドーワークにかかる指摘が鋭い。自家中毒をノイローゼと解説される。「テレビみるなら教養番組をみろ」という科白が面白い。民放のバカ番組へのアレルギーがまだあった時代なのだ。再見。

(評価:★4)

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