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[コメント] 解散式(1967/日)

まるで森崎東みたいな深作。全盛期に達する前にこの左翼的要素も切り捨てているのが判る。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







地域を護る善良な診療所の先生(桑原正一)とは戦後民主主義の典型だ。もっとも成功したのは『とんかつ大将』の佐野周二、もっとも失敗したのは『青春残酷物語』の渡辺文雄だろうか。こういう正義の人を描かないのが東映テイストというものだろうし、それは70年代に徹底されるのだろう。鶴田浩二の相手役に日活の渡辺美佐子、敵役に松竹の渡辺文雄がいるというカオスも上記感想を好意的に補足してくれる。渡辺美佐子の哀しい生活臭は藤純子の様式美とは似て非なるものだ。

買収危機にさらされた埋立地のスラム街、とは森崎東の『男は愛嬌』や『生まれかわった為五郎』が連想される。当然に不法占拠だろう。不法占拠の背後にはやくざがいただろうし、行政だって突っ込まれれば脛に傷があっただろう(代替わりで記録がなく記憶だけ消えたりするのだ)。ラストの石油コンビナートが無言で語る。本作を観ると石油コンビナートを観る目が変わるだろう。例えば大阪駅前ビルはバラック整理の後に建ったことを我々は覚えているが、誰も記録しなければそんな記憶はなくなるのだ。

渡辺と鶴田の対話はまさに左翼対右翼である。「義理人情か」「それを抜いたら俺たちヤクザに何が残る」「任侠道ってのは親分が兵隊をこき使うための都合のいいお仕着せだったんだ」「俺にはぴったり身に合っちまったんだ。とても脱ぐ気にはなれねえよ」。鶴田の特攻隊キャラはこんな言説も残しているのだ。特攻隊は左翼的反省を顧慮しないと宣誓している。理性の届かない、源平合戦的な、仏門に入るしか解決できない怨念の連鎖ではないか。

地上げにダンプ突っ込ませておいて「いやあ悪い」という室田日出夫がいい記録。これは地上げの典型的手法だと聞いたことがある。クライマックスのキャメラの微妙な傾け方が見事なものだ。金子信雄の顎鬚は彼の変態的造形のなかでも屈指。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ぽんしゅう[*] 太陽と戦慄 けにろん[*]

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