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[コメント] 浮草(1959/日)

ホウセンカの赤が田舎町に色恋の予感を漂わせ、夜汽車の赤いランプには『北北西に進路を取れ』を想起させる艶めかしさがある。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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浮草物語』はキネ旬1位三連発の一本だが、余り面白くない。尺が短くて展開に余裕ががないと思う。だから30分長い持ち時間を得て、もう一度撮り直そうとしたのはよく判る気がする。そしてその成果はあがっており、前振りの足りなかった中村鴈治郎京マチ子の関係がしっかり提示されているし、一座の解散も不入りの経過を辿ることで唐突感はなくなり、哀れが増している。突貫小僧の寝小便(面白いけど)ぐらいだったコントも今回は多数盛り込まれ、高橋とよの散髪屋や三井弘次の遁走は爆笑もの。

ホウセンカの赤が田舎町に色恋の予感を漂わせ、ラストは前作と同じ夜汽車だが、赤いランプには『北北西に進路を取れ』のトンネル挿入を想起させる艶めかしさがある。カラーで撮った成果をきっちり出している。

べた褒めしているが、その実やっぱり、あまり面白くなかった。鴈治郎の癇性がどうも好きになれない。主人公の造形は気の弱そうな坂本武から180度の転換であり(収束の待合で同行を云い出すのも旧作では坂本だが本作は京マチ子)ここが最も改編された箇所と思われ、このリメイクの主張でもあるのだろう。しかし結果、なんで京マチ子が鴈治郎について行こうとするのか、よく判らなくなっている。惚れたら痘痕も笑窪、という以上のものが見当たらないと思う。

夜の演芸場で白熱球を背中に真っ暗な人影となって立ち竦む印象的なショットは、鴈治郎のものと記憶していて、正しくは川口浩だったので驚いた。しかしやっぱり鴈治郎のほうが相応しいのではなかろうか。夜の駅で始まり夜の駅で終わる『物語』を、昼日中で始めて夜で終わる構成に改めて、物語の暗転を強調しているが、好みで云えば硬質な『物語』の方がよい。日陰者の心情がより反映されていると思う。蓮實先生の批評に反して、両作とも階段が大写しにされている。

(評価:★3)

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