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[コメント] 非常線の女(1933/日)

破滅型の岡譲二は、もうひとつのオヅ的男性像の基本であること
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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オズの創造した男性像には二種類ある。メジャーなのは斎藤達雄−坂本武−笠智衆の優しさであるがもうひとつ、『風の中の牝鶏』の佐野周二、『宗方姉妹』の山村聰、『浮草』他の中村鴈治郎などの類型があるだろう。胸の奥にわだかまりを抱えた、世間との折り合いをつけかねている「イラチ」な男。世が明治なら志賀直哉的な男性像なのに戦後世界に馴染めず放り出されたような男。

本作の、カクテルグラスを十個連続で割り続ける岡譲二は明らかにその先駆。凸ちゃんとグラス割り合戦を繰り広げたあの空疎な山村聰の先達にあたる。バーテンダーが脇役時代の笠智衆という対照がとても効いている。

岡は水久保澄子三井秀男を救う伊藤大輔的、ビリー・ザ・キッド的な義賊と終盤見做されており、悪人として悔悛するのは当時の道徳観に照らせば妥当なのだろう。ただ、その悔悛が田中絹代に狙撃されてはじめて訪れるのはオヅ作としては破格で驚きがある。戦後の岡的人物はこのように明快に裁かれたことはなかった。作劇を重ねるうえで男性像は複雑に発展していったのであり、本作はその基本形と見える(もうひとつの基本形は『青春の夢いまいづこ』で友人を爽やかにぶん殴る江川宇礼雄だろう)。

その夜の妻』で導入されたエンプティショットは大々的に展開される。冒頭の時計と帽子掛けの無機的な羅列は圧巻。「クラブ歯磨」なるネオンの明滅は『東京の宿』で反復されることになる。緊迫感のなか、大量に並ぶニッパー君(ビクターの犬)のナンセンスがぬけぬけと挿入される手際などキートン流である。収束の絹代の編んだ靴下が美しいのは、この無機質な世界が背景にあるからだ。ただ、ラストの陽のあたる植木鉢はメロウでちとやり過ぎかも知れない。

(評価:★4)

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