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[コメント] アワーミュージック(2004/仏)

すでにお馴染みの方法論による、難解な処のないとても率直で気持ちのいい作品。2010年代のゴダールは、うわあ青臭いもの撮っちゃったぜと振り返ったかも知れない。「人生は自分を敗者だと確信して生きる闘いだ」。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







三部作の地獄篇は戦争フィルムの引用。クロサワもある。「かつて神話の時代には大洪水があり、地表には武器を持った人間が現れ、殺戮が続いた」「ただ許したまえ」。

煉獄篇はゴダールのサラエボ訪問記。急いで復旧されたのだろう路面電車と、焼けたままのビルや本が散乱したままの図書館の対照。廃墟で書籍を整理する人々。「巨大な破壊力を前に今こそ革命が必要である。破壊に匹敵する創造力の革命だ。記憶を補強し、夢を明確にし、イメージを実体化する」。

想像力ではない創造力。なるほどと思って私は「創造力の革命」とネットで検索した。すると右脳革命の広告が山のように出てきてこれが日本かと厭になった。

「死者に最良の運命を残せ。束の間の生命に輝きを与えよ。生者たちが穏やかに闇を歩けるように導け」「理論家は実践を知らない、毛沢東のように(!)」共産主義が一度だけ存在したのは、全員サッカーのポーランドがイギリスに勝利した時だと、冗談のような本音が云われる。

ゴダールの講演会場には『キッド』のパネルが掲示されている。サラエボの民族浄化にイスラエル・パレスチナ問題が重ねられ、ホークスは男女の区別が判らなかったという男女の写真の対照に、ユダヤとパレスチナの船での移動写真が重ねられる。

イスラエルのサラ・アドラーの、パレスチナ詩人マフムード・ダルウィーシュへのインタヴューはお互い喧嘩腰だ。詩人は詩を持たない民族について、ユダヤという敵を持つ意味について語る。インディアンが徘徊して白人を批判して廻る。アドラーはいい顔していて、インディアンに似ている処がある。どういう含みだったのだろうか。

彼女は「敗者と確信して」闘い、人質取って立てこもり射殺されて、最後の天国篇に登場する。この森と陽光と川と海、兵士と若者たちから成る天国。

自宅で花づくりしてデカすぎる葉巻吸うゴダール。頭ぶつけるギャグがいい。画面に出るのはあえて老年の滑稽を引き受けているように見える。タイトルに比して劇伴が常ならぬ大人しさというのが、いつも通り捻くれた処。俗な情念の映画ばかり観ていると、ゴダールの理性が爽やかに感じられる。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ナム太郎[*]

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