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[コメント] 讃歌(1972/日)

新藤映画の女人崇拝のひとつの極端。原作の魅力が独自の方法論で見事に映像化されており、身に迫るものがある。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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原作のフェイク・ドキュメンタリーの外枠を活用して乙羽信子の春琴に対する批評が続くのだが、そこで浮かび上がるのは、老人ホームの偏屈な婆さんである乙羽の人となりであり、それは春琴そのものなのだろうと徐々に判明して最後の琴の演奏に至る。鮮やかなものである。

島津『お琴と佐助』にあったような忠孝のニュアンスが丁寧に排除されているのは流石と云いたい。ウンコ踏んづけるような脇役のコントは別に笑える訳ではないが、下らない下界という世界観を併せて構築している。鼻血を垂らすインタヴューアー新藤の同類の自虐だろう。プールに蝟集する変人たちはハリウッド・サイレントを彷彿とさせる。

70年代アングラそのものの渡辺督子は全身白粉で異形さを増し、一般的な性愛の対象として見られるのを徹底的に拒んでいる。彼女を相手に被虐的な河原崎次郎の造形が優れもので、余りのマゾ振りに別の心根があるのではないかと疑われるのであり、火傷の件は一瞬その疑念を浮上させ、そしてそうではないとついには確信させられる。

序盤の三味線で同じフレーズが延々繰り返される件は力強く、排便を肥やしに繁った庭の樹木と、上記の火傷のシンボリックな描写が優れている。

(評価:★4)

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