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[コメント] スウィングガールズ(2004/日)

上野樹里
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ギャグ漫画の世界を実写に転写する造形において、上野樹里はたぶん本邦随一。他の俳優も頑張っているがここでは上野がいかに上手いかの比較対象にしかなっていない。どこでもいい、例えば夕暮の河原、中古でゲットしたサックスの部品が脱落して「うわあ」と嘆くリアクションなど抜群だ。漫画世代が身に付けた表現に違いない。

同じことを、例えば凸ちゃんや淡島が演じた想像すれば、画面から出るオーラが強すぎただろう。上野はアクションを止めたとき、自分のオーラを消し去り実に平凡な佇まいに入ることができる。だからアクションに移ったときの落差が絶妙になる、と見える。本作は彼女の『』と並ぶ代表作として尊重したい。

回収不要の無責任は喜劇の友だちであるが、思い返せば本作の上野は相当にヘビーな体験をしている。冒頭の、弁当を線路上にひっくり返したことに起因する食中毒事件は、被害者たちが復帰して野球部応援のブラバン演奏の機会を上野たちがら奪うことにより作劇上はチャラにされるのだが、上野から犯罪の記憶が失われることはあるまい。

平岡祐太はこの件で彼女(顎についた米粒による発覚が上手い)を脅迫しているのであり、将来ふたりが恋仲になることはあるまいと思わされる。雪合戦の件、上野の平岡への無体な攻撃(仰向けに寝転がる上野の悲し気な無表情は本作のベストショットだ)は、平岡への懲罰のニュアンスがある。

終盤の演奏会応募落選(原因は上野の応募遅延)についても、降雪による不参加団体発生と繰上げ入選によりご都合主義的に解決し、上野の責任は不問に付されるのだが、これも上野の心に負い目として一生残るだろう。

これらに観客が思いを致すことを監督は当然に意図しているだろう。凡々たる喜劇のクリシェを避けて、これらへの反省を全く指摘しようとしないのが本作の主張であるはずだ。ミスに拘って鬱になって人生を棒に振っちゃもったいないよ、陽気に過ごそうよ、というある種スピノザ的な認識がその主張の根本と取りたい(もっとも、食中毒はやり過ぎではあるが、コメディとしてギリギリ成立していると見たい)。

教育不熱心で「ブランデー片手にジャズを聴く」竹中直人のブラックな痛めつけ方は本邦喜劇の伝統に根差しているだろう。ギャグの物量は優秀で美点。豊島由佳梨のスカート脱落に驚いて河原を転倒する自転車、エレベーターでのマネキンへの集団キス、フォークデュオの純情、いつの間にか音楽室にいる白石美帆の件などとてもいい。

(評価:★5)

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