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[コメント] 大地(1937/米)

本作は撮影美術を讃える映画だろう。序盤の刈入の嵐がまず凄い。風吹き雨は横殴り、穂が地平の先まで棚引き牛車が斜めになって畔を走る。細かいカット割りの豪胆な描写の連続はソ連映画を想起させる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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名作の映画化だから考証は正確なんだろうか。貧乏農家が最初から農奴ではない、というのが目を引く。本邦ではあり得ないだろう。本作のクライマックスは飢饉描写で箆棒だ。流れていく人を見てあれは飢饉だという厭な予感、ひび割れた畑にハゲタカは飛び、水牛は僅かな泥水に横たわる。

土地を売るか売らぬかのジレンマがリアルだ。売値は買値の百分の一に買い叩かれ、悪徳商人とは常にこのように人の窮地で儲けるのだと学ばせてくれる。ルイーズ・ライナーポール・ムニの殺せなかった水牛をバラし、土を鍋で煮る。娘を売る話、そして移民のような大移動、乞食の体験。ここが箆棒だなあ。本作は乞食まで体験させてくれる。

革命の混乱に宝石拾って金持ちになる、という急展開も原作通りな訳だが、普通はあのまま都会で一家全滅だろう、というリアルは担保されている。ここ以降は付け足しのエピローグという捉え方をしたい。第二夫人との確執など女性作家の拘りなんだろう。ただし圧倒的な蝗害の描写が再び素晴らしい。降ってくる描写、焼かれて爆ぜる音や大群に呑まれる被害者。

ルイーズ・ライナーはコン・リー似。真珠を大切にする女心と、亡くなって妻は大地だったという総括は、旧弊に属する部分もあるだろう。しかし中国人への民族差別が激しかったアメリカで『散りゆく花』と並んで本作が撮られたのだった。冒頭から中国の魂の「つつましさと勇気、伝統と努力」が讃えられる。戦前、日本人はハリウッドでこのように讃えられたことはなかったんだろう。37年は盧溝橋事件の年。

(評価:★5)

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