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[コメント] 午後の遺言状(1995/日)

いつもの達者な杉村春子に対するは科白棒読みな乙羽信子の新藤不思議流。なんと豪華な遺作対決。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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竪穴住居時代の習慣と笑われる足入れ式なる初夜の予行演習。これに引き寄せられるように杉村春子は死んだ亭主と姦通した乙羽信子を赦してしまう。妾の子は私の子でもあると。この常識外れの肯定は、神代の代の性の大らかさを描き続けた新藤らしい。物事をこんな具合に前向きに考えられたら渡世は楽になるだろう、そのための老人の知恵だなあと、この本筋は感銘を与えてくれるものがある。

一方、朝霧鏡子の自殺は弱い。倍賞美津子の解説をかますのも弱い。杉村・乙羽が主演なのだから肉薄しすぎないよう距離を保つのは判るが保ち過ぎだろう。杉村から見ても残念ねえ以上の感慨が出てこない。最期の赤い風船で面目を保っているけど。

舞台俳優を演じる杉村の役名が森本であるのは、杉村の夫で早くに逝去された劇作家の森本薫を踏まえているに違いない。杉村本気の遺作だった。しかし主役の座を最後の最後で奪っちゃうのは乙羽、というのに面白味を感じる。

「もっと悪人にならなきゃ。芝居がつまらないわ」という杉村のいい科白があるが、乙羽がこれを持っていった。多義的な収束は観客の数だけ解釈のあるものだろう。私は死んでたまるかと取った。闘病する乙羽への新藤の励ましであったに違いない。だた、乙羽の造形に余り肉付けがないものだから唐突感は否めないものがある。

物語は些細な処で不注意が散見されると思う。強盗が部屋で拳銃ぶっ放したのだから天井に穴ぐらい開いているだろうに、永島敏行の警部補が大して事情聴取もせず補償の話もしないのはおかしい、など。しかし、老境の大監督にはそんなこと、もうどうでもいいのだろう。こういうのはいっそ気持ちが良い処がある。

(評価:★3)

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