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[コメント] 薮の中の黒猫(1968/日)

カタルシスを拒否する刺すような能世界
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







大真面目に撮られた化け猫映画。能の現代劇への判りやすいアダプトで、竹藪生え放題な舞台が印象的、乙羽信子の宝塚仕込みの舞いも見れる。光と影の美しさは本作の誉れというよりも、当時の日本映画のレベルの高さによるものだろう。林光も絶好調、新藤や吉田喜重の作品を支えた現代音楽の才能たちの充実ぶりが記録されている。

敗者の怨念は世界をよい方に変えてくれるに違いない、というのが能の(仏教的な)世界観だろう。本作の方法論もこれに依っている。この際興味深いのが化け猫幽霊の寡黙さで、乙羽は中村吉右衛門に化けて出た訳を話せと云われ、それは禁止されていると拒む。武士への恨みは云うが、お前ら一味に殺された、とまでは云わない。だから吉右衛門が佐藤慶に復讐する展開にはならない。ラスト、キャメラは冒頭に戻り、吉右衛門は農家の廃屋に戻って死んでしまう。ここには確かな感慨がある。怨念は観客に引き継がれ、そのほうがチャンバラのカタルシスよりもいいのだ、としている。

空中浮遊は愉しく、空に飛んでゆく乙羽を仰角で見上げるイメージはいいものがあり、スタントマンさんは凄いものだが、宙返りシーンは多過ぎるだろう。観世栄夫の天皇は余りにもはまり役。ベストショットは乙羽の束ねた黒髪が猫の尻尾のように振られるギャグで怪談映画ならでは。

(評価:★4)

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