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[コメント] 女囚さそり 701号怨み節(1973/日)

極左の終焉を描いて象徴の域に達した傑作。独特の品格とシュールな絵心に富んだ仲沢半次郎の傑作。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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梶芽衣子の黒ポンチョのキメは当然のように抜群(無人の地下道も、ストリップ小屋の舞台登場も)。絞首台周辺はどれもシュールで素晴らしく、これをバックに顔アップの大胆構図も嬉しいし、細川俊之の最期における清順調のライティングも素敵だ。

しかしさらに凄いのは、梶と田村正和の逃亡生活を捉えた地味な断片の数々で、地味なセーターの梶が剥げた畳のうえで膝を抱えて西日を浴びるショットなど、73年を考えると余りにも生々しい。巧みにもこの4作目は梶が何の罪状なのか何も語らず、それはカフカの不条理の純度に達しており、ただ田村との同伴だけがある。梶が押入れ開けたら転げ落ちるヘルメットの件などで、映画は極左に同情的であると示しており、後世では(若松以外)考えられない時代の空気が息苦しくも充満している。

母親の初井言榮に泣き落とされる田村は実にリアル。正にこのように当時の革新は終わったのだった。これを記録しただけでも本作は傑作である(田村の不能という主題は『野良猫ロック セックスハンター』の藤竜也を引き継いでいる)。ファナティックな細川の造形はシリーズを踏襲(広がる血痕が日の丸を描くショットも伊藤を引き継いでいる)したものだが、同僚や妻の死の恨みという弁明をこの刑事に与えているのが効いていて、物語は左右総崩れに至る。

シリーズ終わらせたかった梶が恩師の長谷部を東映に呼んで撮った、彼女お気に入りの最終作(自伝「真実」面白いよ)。田村を刺し殺して呟く「殺したのはもうひとりの松島ナミさ」は、事情を鑑みればナミ引退興行のアナウンスであり、作劇に寄り添えば惚れた男などアタシにはいらないとなるだろう(田村が警察にゲロしたから、ではないのが美しい)。しかし政治的には、この科白は極左と同伴した自分を葬ったと受け取るのが正しかろう。

刑務所で写経する中原早苗に、珍しくも長広舌で死の恐怖を語る梶。中原は発狂する。罪名も与えられず、政治に絶望し、ただ生き延びることだけがナミの宿命であり、彼女の唯一の倫理観だ。シリーズが終わって梶の手を離れてもなお、ナミは潜伏生活を続けているに違いない。今日只今もどこか路地裏の隠れ家で。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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