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[コメント] 街の灯(1974/日)

生命力溢るる『家族』のパロディ。不良老人と化した笠智衆とその一行は徒歩で逆ルートを東京から九州まで遡り、道中当然のように捨て子を拾い続ける(含『家族』のネタバレ)。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







九州から新幹線等で北上し、道中で子供を亡くし、笠自身も亡くなる『家族』を裏返した具合だ。色んなものを消耗し続ける『家族』に対し、本作の旅は色んな過剰を身に帯び続ける。どちらが良いかではなく、両大家の方法論の違いが先鋭的に表われている。

そんななか、笠智衆にこの役を与えた極端さが本作の勝因だろう。屑籠から余り物の弁当取り出し、ガロとともに万引きし、堺正章を背負い投げ(昔、三井弘次を投げたことがあったけど)、留置所で堺と再会する森崎的人物。これを笠が演じてミスマッチ感皆無、懐の深さに惚れ惚れとする。銀行強盗を鞄から転げ落ちる軍人手帖のワンショットで納得させてしまうさすがの話法。繰り返される野宿の件は全部美しい。

バタ臭い堺正章をどう観るかで好みの別れる作品だとは思う。彼は私の世代には、バラエティでのテレビ画面からはみ出るようなドタバタを幼少時に眺め続けたコメディアンなのだが、森崎映画とは明らかに相性が良く、その素っ頓狂なアクションはつねにベストポジションで捉えられる。

タイトルバックの足折った財津一郎とのドタバタからして素晴らしい。いらぬ一言で短気な田中邦衛を爆発させて二階を失う件、女子プロレスで不条理にも延々痛めつけられるレフリーの件(よくあるギャグだが、いつも面白くなる)、民宿における笠と三木のり平対決の件と、どれも抜群。癖のある人物が折り重なる構図はやはりどれも絶品だが、なかでも民宿の件は中庭と屋内を行き来する縦構図(殴られた堺が中庭から押入れまで転がってゆく)にはっとさせられる冴えがあった。

この堺にして童貞の裏テーマは微笑ましく、正嫡などいらんと云っていると解すれば過激。タイトルは栗田ひろみの記憶喪失がヴァージニア・チェリルの失明と重ね合わされているのだろう。目的地九州は『家族』の北海道のような約束の地ではなく、Uターンを強いられ、結局、この旅で得たのは吉田日出子の元に結集する捨て子たちだけだった。しかしそれこそが尊いのだと映画は断定する。堺の自殺未遂は子供たちに救われる。金なんていらないよと云わんばかりに強盗の現金は貨物列車とともに消え去る。森崎映画はなんて美しいんだろう。鑑賞したフィルムは劣化激しく心配。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] ゑぎ[*]

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