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[コメント] おばあちゃんの家(2002/韓国)

町の食堂でお婆さんは孫にだけ食事を注文する。腹の減らない老人にとってそれは特別なことではないが、心ある少年にそれは一生の宝になるだろう。世の中そうやって回っている。★6級。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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この少年は貧乏を知っているのだ。祖母の狭い家にすぐ慣れるし、貧しい食事(自分の田畑から採れたものばかりなのだろう)にもすぐ慣れる。都会でも小さなアパートに住まうのだろうし、鍵っ子で大したものは食べていないのだろうと容易に想像される。だから金を見て涙を流す。『喜劇 女は度胸』の清川虹子さんを思い出す。「泪とともにパンを食べたことのない人には、真実というものは判らない」。

お婆さんはなぜひとりで住んでいるのだろう。バスで行く距離の町には友人もいる。かつて集落があって離散して、彼女の家だけが残ったのだろうか。それとも事情があって、山中に家を構えたのだろうか。それに関連して、家出してしまった娘への後悔が窺われる。 想像するしかない背景は、三代並んだバス停の光景で巧まずして浮かび上がる。この女性監督は母親の位置で老婆と子供に挟まれて、何も知らなかった自分を断罪しているだろう。

序盤の乱暴狼藉、ああこの少年は自分だ、と思わずにいられない。人間は動物で生まれるのだ。何といたたまれない映画であることか。町の食堂でお婆さんは孫にだけ食事を注文する。腹の減らない老人にとってそれは特別なことではないが、心ある少年にそれは一生の宝になるだろう。お婆さん同士の「死ぬ前にもう一度会おう」という挨拶は切ないが、年取ればそういうものだと思われてくるものだ。少年が残した緊急の説明と、糸の通った針の大量に刺された針山を、お婆さんは微笑みを持って眺めるだろう。なぜ微笑むのか少年には見当もつかないだろう。世の中そうやって回っている。

キム・ウルブンは当地の住人。ロケ現場を気に入った監督が見つけ、乞うて出演してもらっている。最初のバス停の泣きそうな表情からもう、心を鷲掴みにされる人だ。北林谷栄の最高傑作と並ぶだろう。メイキング映像では彼女は喋るのだが、映画と随分印象が違う。本作は障碍者映画でもあるのだ。彼女はメイキングで、劇中着続けた民族衣装を「こんなものは着たことがない」とも云っている。壺が便器とは驚きであり、繰り返される暴れ牛の件も民話のようで、この世界に相応しい。

想いが通じる奇跡を描いて『街の灯』を想起させる★6級の傑作。正宗白鳥は「楢山節考」を「人生永遠の書の一つとして心読した」と評したが、それが思い出される。再見。

(評価:★5)

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