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[コメント] 人も歩けば(1960/日)

笑いだけが残る煙のような喜劇。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







とりわけ素晴らしいのは例えばフランキー堺のナレーションによる犬の考察と序盤の畳み掛け。タイトルバックに飛んでゆく犬の風船。沢村貞子の怪演(まだ籍は入れていません)。小林千登勢の可憐さ。足相を取り続ける森川信に付き合う面々の妙な真面目さ。手拭を洗濯紐から外して顔を見せ会話に加わる淡路恵子。途中からキャメラはフランキーの逃亡先と実家とを交互に撮ることになるが、これを飽きさせない工夫の小ネタ(階段からの転落に続いて階段を登る等)。群衆の乱闘シーンは全ていいが、とりわけバイク盗んで銀座を逃走するフランキーと、脱線トリオとのドタバタ。出歯亀と間違われた学生探偵の件もすごい。余りにも麻原某に似ているフランキー堺の教祖とこれも変装した探偵藤木悠との路上でのすれ違い。ラストのセッションでバンジョーを弾く淡路。

これほどの芸達者たちを出し入れし続けた混乱の余韻が観終わっての感想になるのだが、それでいて全ての主要人物が過不足なくその魅力をフィルムに定着させていたことは疑う余地がない。群像劇における川島の腕力は凄まじいものだ。

夢落ちも素晴らしい。そのように思い返せば、小林がフランキーを好きだというのは夢の願望だったのだ。他にも何かあっただろうか。ともあれこの喜劇、全く何もこの世に残さなかった。笑った記憶の他は煙のように消えてゆく、これは純粋な喜劇であった。

(評価:★5)

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