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[コメント] 座頭市鉄火旅(1967/日)

上等のブラック喜劇。遠藤辰雄の代表作だろう。藤村志保春川ますみの併存は末期大映の粋、まるで蝶と蛾が同じ画面を舞っている具合だ。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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うどん屋の屋台崩壊に至る殺陣から始めて樽に入れられグルグル回しにされて「俺にゃ回る眼がねえんだ」まで、シークエンス毎の小ネタが豊富でとても充実している。市の春川ますみへの按摩は最高であり(内腿に手を伸ばすと「あたしゃそこは弱いんだよ」)、北龍二への按摩でもの喋らせないギャグ、座頭市と知って卑屈になった遠藤辰雄を揶揄い続け膝のうえへ酒ぶちまけるギャグ、どれも面白い。ここでも遠藤の悪役は悪役の戯画化において抜群に優れている。鉄火場で儲け続ける市も爆笑もの。

座敷の灰色の襖絵が渋く、藤村志保の帯が可愛い。藤村が最初は市を怒鳴りつけていて、最後は市に怒鳴りつけられるという展開がいい。剣マニアの東野英治郎との対話は仄暗く、刀の寿命即ち市の寿命という処にまで踏み込んでおり、シリーズ初期のダークさを取り戻して優れている。ただ、この前振りの覆し方はちょっとあっさりし過ぎてしまい、後半が平坦になってしまった(このために東野が死んでいるんだから、よく考えればあっさりもしていなんだが)。

劇中、水前寺清子は「いっぽんどっこの唄」を歌うが、当時の観客には市などどうでもよくて、ただこのミリオンセラー曲を映画館に聴きに行っただけの人もいたのだろう。昔の娯楽は良くも悪くも細分化されていなかったものだった。

(評価:★4)

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