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[コメント] 孫悟空(前篇・後篇)(1940/日)

日中戦争中なのに中国を舞台の暴力批判で驚いた。東宝喜劇はこんなものも撮っているのだ。欠点は三蔵法師でどうにも地味でいけない。やはり夏目雅子のキャスティングは抜群だったと思わされる。孫悟空がどちらについて行くかは明らかだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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原作中国横断の旅の背景には中国奥地を平定する大日本帝国のエートスがあるのかと思いきやまるでない。榎本健一は殺生戒を犯したと法師に叱られ、暴力は封じられ、殺生は致しませんと誓わされるも、また暴力を使って一度は法師に破門される。家来の元に戻って下界の征服を宣誓したりするが、おだてられて復帰し、殺生をせずに敵兵を挑発して逃げ回り、敵の手に落ちた法師を救出する。すると頭の緊箍児(きんこじ)が無くなった、というハッピーエンド。

山形雄策(原作)とはどういうことなんだろうか。OPには表記されないがヤフー映画などもこの情報を採用している。山形は独立プロで山本薩夫とコンビを組んだ脚本家であり、戦後でも同じ戦争回避のホンを書いただろう。よくこれが日中戦争中に公開されたものだと思う。映画法所管の官僚たちはこれをどう観たんだろう。本作は情報局映画ではない。

これは子供向けの映画なんだろうが、(日劇ダンシングチーム改メ)東寶舞踏隊(!)がやたら大活躍する。レヴューとはそんなものなんだろう。話は子供向けだが、ダンスは引率の保護者用という棲み分けなんだろうか。エノケンが如意棒を飛行機や機関銃にしたり変身したり瞬間移動したりする際のマジナイ「イーリャンサン」は当時の国民学校で大流行りだったらしい。こういうのはいつの時代も同じである。

ひとり旅の三蔵法師が観世音菩薩に祈祷すると孫悟空が遣わされ、乱暴してお釈迦様に洞窟に閉じ込められたと来歴を語る。このとき、観音さまとお釈迦さまの関係はどうなっているのだろう。観音経の説話なのだろうか。観音さまは花井蘭子になって登場して女難は金魚のせいだ、煩悩だと説いたりしている。

楽曲はディズニーのパクリが多いらしく(昨今の中国のように本邦は著作権料フリー)、ポパイのホウレンソウもパクられている。キャラの棲み分けやブリキのロボットや千夜一夜風の美術は『オズの魔法使』(39)が何となく想起される。千里眼と呼ぶ手鏡で猪八戒の行方を見るとき、これがテレビジョンというものだと云われるのが個人的には驚きだった。最初に歌う唐の太宗は藤山一郎渡辺はま子はどこに出ているか判らなかった。ギャグはエノケンと高勢実乗の変身合戦と猿蟹合戦が最高にいい。

しかしこの暴力批判、もう暴れるなと、孫悟空を代表とする中国人の抵抗を日帝が押さえこんでいる図にも見えるな。よく考えたら。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)水那岐 ぽんしゅう[*]

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