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[コメント] 哀愁しんでれら(2021/日)

万人に響くメッセージ性と万人ウケしないブラックコメディ。見事な完成度の寓話。
deenity

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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正直めちゃくちゃ賛否両論分かれる作品だなってことはわかります。受けつけない人とか理解できない人がいるのもわかります。でも個人的には賛成派ですかね。 というのも本作は明確に寓話性を持たせていますよね。タイトル自体、よく知りもしない王子様と結婚したシンデレラは幸せになれたのかという寓話のその後を描いていますし、作中でもカラフルな色彩や幻想的演出なんかはそういった意図を感じます。 だからとことん悪循環にハマって抜け出せない非現実性とか「なんでそうなる?」って心情の変化とかも、一つのおとぎ話の物語という体をとれる点ですべて成り立ってくると思います。冒頭の不幸連発とか凄まじかったですからね。余談ですけどあのシーンのためだけでも土屋太鳳に監督がこだわった理由がわかりますよね。

話が逸れましたが、要は本作で引っかかってくるのは土屋太鳳演じる小春の心境が理解できない点だと思うんですよね。親に捨てられたトラウマを抱えながら必死に母親を務めようとしていた彼女がなんでそうなるのって話で、正直ヒカリの性格に難があるのはさておき、しっかりと育児ができないのは設定上やむを得んのですよね。 ただ、追い出された後になんでああなるのかってなった時の心境ってはっきり言って描かれてないんですけど、細かい心情云々は置いといて、型にはまる決断をしたってのはそういう話だから仕方ない、で片付けるしかないんですよね。そういうおとぎ話なんだから。 だからむしろ大事になってくるのはどうしてそうしたのか、ではなく、どのようにそうなったのか、がポイントで、そういう意味では線路沿いで指輪をはめるというあの行為が実に象徴的で上手い表現だったというのは文句のつけようがなく見事だと感じました。あそここそが本当の意味での家族の仲間入りということですからね。 しかしまあそうとわかっていても胸糞悪いことに違いはありませんし、共感はされないのは容易に想像できますけどね(笑)

そして寓話性においてもう一つ大切なのがメッセージ性ですよね。 結末として胸糞オチって感じでエンディングを迎えますが、どう考えても反面教師的なメッセージは読み取れると思いますし、他者批判ばかりしている人ほど自分のことを客観視できていないとか綺麗事や理想ばかり抱いている人ほど自我が崩壊すると怖いとか、多くの人が身につまされるという意味では答えを示さないエクスキューズで終わった作品だとしてもわかりやすく作られてますよね。

ただ、何への戒めかって考えると正直いろいろ浮かんでくるわけで、それこそ自己を保つことの必要性とか信じ過ぎるが故に人は盲目になるとかこれだっていう明確な答えってないと思いますが、自分が作品の根幹にあるテーマは「相手のことをよく知りなさい」かなって思っています。

このご時世、顔も名前も情報も何だって偽って出会うことができるわけですよね。それこそまともにわかる情報が靴のサイズくらいなものかもしれないのに、繋がりを持つことができるような今の時代を生きる者への警鐘を鳴らす意図なんじゃないかと思ってます。 だってそもそもシンデレラのその後を描く、ってそういうことですよね。だからすごくあっさりした答えかもしれないですけど、でもそもそもそのわかりきった答えがいかに危険かを示す寓話だというのがベースにある作品なんだと思います。

それにしても子役のCOCOちゃんは凄まじい演技でしたね。いい意味でめちゃくちゃ嫌いだって思いましたね(笑)それにブラックコメディにも程があるほどエッジの効いた作品でしたね。終始笑えねえよって笑いどころがぶち込まれてますし、ラストシーンが現実か空想かはさておき、金子みすゞの詩をあんなタイミングで持ってくるのはさすがにやってんなーって感じでしたね笑

(評価:★5)

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