もしこの世界から自分以外の記憶からビートルズが消えたなら。 もう設定からして良作の匂いがプンプン漂っています。ただビートルズについてそこまで詳しいわけではないし、設定止まりになってしまわないか心配もありました。 そして思ったことは、ビートルズはすげえってこと。「Yesterday」とか「let it be」とかその辺りの超メジャー曲はもちろん、「ああ、この曲もビートルズか」と聞き覚えのある曲がとにかく豊富で、ビートルズの偉大さと普遍性を改めて実感しました。

とは言え本作は最近で言えば『ボヘミアン・ラプソディ』とか『ジャージー・ボーイズ』とか、見てはないですが『ロケットマン』とかもたぶんそうだと思いますが、それらの作品とは違い、音楽映画ではありますが、一曲一曲をしっかり聴かせるような音楽映画とは違い、様々な名曲が少しずつ小出しされていくような感じです。だから「やっぱりビートルズはすげえ」とはなるのですが、それを楽しむだけがテーマの作品ではないわけです。

本作のテーマで言えば、一つはジャックをずっと支えて応援し続けてきたエリーとの恋愛ですね。そしてもう一つはジャックのやってる行為は言わば盗作であることに違いはないので、そこにどう決着をつけるか、という点です。

前者に関してはエリーを演じるリリー・ジェームズが抜群にかわいいんで、それだけでもう応援したくなるというのはありますね。売れないジャックのためにマネージメントしたり、足になったり、優しく声かけをしたり、たとえ日の目を浴びなくとも健気に支えるその存在だけでジャックは十分幸せ者でしょう。 ただ、自分の才能のなさに道を諦めようとした彼を止めて、売れることを切に願ったエリーの願いが叶った。しかしそれ故二人の距離が遠くなっていくというのは物凄く切なくて、どちらにも感情移入している分、胸が苦しくなったのも事実です。空港のシーンとか、ああいうの耐えられないですよ、ホント。

でもしっくりこなかったのは、エリーがなぜあそこまで思い続けてきたのかという背景が描かれていないこと。あの幼い頃のあの演奏にグッときたのはあるでしょうが、それだけが根拠なら弱すぎるように思います。また、彼自身もなぜその思いを持っていながら、寝室で言葉を詰まらせたのか。あそこまで大がかりなことができるわけだし、演出の一言では片付けられませんよ。あのシーンの感情がわかるからこそ、それを伝えるシーンへの深みが出るのだと思いますし、もう少し丁寧に心情を理解させる工夫があってもよかったと思います。

さて、後者の問題はジャックがビートルズの曲を広めようとすれば必ずつきまとう問題です。自分で作ったわけでもない曲を自分の曲だと言われ、名曲だの天才だのともてはやされ、もし真実をしっている人がいたら、と考えると穴にも入りたい気分になる。「help」の歌詞なんかはよかったですね。まさに今の心の叫びって感じが響いてきました。 ただ、そのライブをきっかけにテーマに深く食い込んでいきますね。「イエローサブマリン」を持った男女。自分の思っていた方とは全く逆の反応と、心にあったしこりが取れて尚この後どうしていくか、が本作のメッセージにあたるわけです。スペシャルゲストには驚きましたが、着地点としては微妙だったかなと思います。確かに角は立たず、いろんな思いを汲んでいて悪くはないのですが、刺さるものはなかったですね。

と言いつつも、程良いコメディと味のある各キャラクターと設定勝ちの強みを含めるとやはり良作であることに異論はありません。エド・シーランとかかなりのキーマンになっていてそれだけで面白かったですしね。