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[コメント] 三度目の殺人(2017/日)

是枝監督と来たらお馴染みの福山雅治ね。うんうん。役所広司もいいよね。わかるわかる。ん?おい、ちょいと待て!そんでまさかの法廷サスペンスですかい!?まさか、まさかね…。
deenity

**ネタバレ注意**
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是枝監督最新作にして是枝監督っぽくない雰囲気の作品が来ましたね。個人的にはリアリズムを追求したヒューマンドラマに関して、今日本では右に出る者はいないんじゃないかと思うくらいの監督だと思うんですご、まさか法廷サスペンス物!? …と思ったらやはり違いますね。間違いなく大一級品のヒューマンドラマです。サスペンスベースの展開で構成されている、というだけの話ですね。

実際に裁判で真実のやり取りがなされているというのは幻想であり、事実はどうかという様が冒頭で早々に表現されている。まあ物事の真実に勝ちだの負けだのつけるわけだから、要は案件においてどこに妥協点を見出すか、というのが現実である。 それ自体胸くそ悪いことではあるのだが、そういうもんだろうな、と思う自分もいて、だから重盛という弁護士に対しての印象は別に悪くはならない。

しかし、弁護する味方側の三隅がそうではないから話はよじれる。二転三転する供述。死刑を免れたいはずなのに協力的ではなく、かと言って悪い奴にも見えない三隅が一体何を考えているのか。「被告を理解する必要などない」と豪語する重盛の歯車が狂い始める。自然と重盛と同じ、「真実は何なのか」を追求する視点に重なっていく。

ただ、本作の真実において裁判でのやり取りはミスリードでしかない。所詮は妥協点を追い求めるだけの戯言だ。肝要なのは接見室での対話だ。

この密室で繰り広げられるただの会話のやり取り。それを映す表現は素晴らしい。光の明暗を使い分け、二人の演技をさらに重く迫力を持たせたのは秀逸。 加えてカメラワークの変化。冒頭のガラス越しに分けられた部屋であることを印象付けるような距離感を感じさせる視点から、少しずつ重盛が歩み寄り、まるで一つの空間にいるかのような視点で映し出し、ラストでの二人が重ね合っているかのような視点に変化していく様は、この作品の一番の力の入れ所であると断言していいだろう。

真実は何なのか。最後に重盛は三隅を理解しようとし、一つの自分なりの結論に辿り着く。ああ、そうなのか、と納得させる答えを指し示す。 ただそれを「ダメですよ。殺人犯の言うことを信じちゃ」なんて意に介さず三隅。ここに来て本当のテーマが突きつけられる。 所詮この作品が導き出したのは自信が信じたい答えでしかないのだ。真実など他者であるはずの自分がわかるはずがないのだ。彼は重盛裁判官に憧れたように、十字架を何度も用いたように、裁きを下したのだろうか。カナリアはどうして一羽だけ逃したのだろうか。咲江との関係は実際どうなのだろうか。全てヒントになるようで、それを全て示さない辺りが焦れったく、「器」に当てはめようとしているだけに思えてくる。

そう思うとタイトルの意味は深みが増す。三度目の殺人が指すのは、自分自身を殺して咲江のために、と思っていた。しかしそれは所詮自己の先入観でしかなく、ともすれば裁かれる三隅自身を殺人と結論づけた判決自体を指すのだろうか。深い。

(評価:★4)

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