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[コメント] ウエスタン(1969/米=伊)

全てが是「演出」の映画。含意などほとんどどうでもいい。一つの頂点であることは間違いないだろう。圧倒的没入感。一種の自己陶酔映画の極致。これぞ娯楽映画。モリコーネの「演歌」は必聴。
DSCH

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アホかと思う程キメキメの漢達の、酒場での遭遇、決死の戯れ合いの演出で分かるように、使い古されつつあった「いかにも西部劇的シーン」をひたすら深化して撮る。あるいはそれは「西部劇」の頂点としての相でありかつ末期症状を示していたのかも知れないが、そのいずれであるにしろ、虫の音・ハモニカ・汽車・馬・酒・ランプ・風車などの「基本的材料」をカメラワーク・音楽をはじめとした演出でどれだけ巧く料理するか、そこに力が傾注された画面の密度は大変なもの。

オープニングの「スタイリッシュ」感は正に「真打ち」であり、昨今のエセ「スタイリッシュ演出家」に100回位見せつけてレポートを書かせたくなる圧倒的水準。逆光を背負って現れる三人を順々にとらえるカメラワークなんて垂涎もの。風車のきしみとハーモニカの音色をかぶせる辺りははっきり言って意味不明だが、「意味はわかんないけど何か凄え」という奇跡の瞬間が多々。そして絞り込まれた台詞のすばらしさ。一家惨殺のシーンも意味のない説明は全くなく、「予感」をあくまで演出で語る姿勢は本当に素晴らしい。この「基本的」なことが出来ていない映画は驚くほど多いが、この「基本」がどれだけ難しいことか。「汽車ポッポの旦那」も言葉少なだが、地味〜によい。

女が駅に降り立つシーンのモブ描写の賑わい。とりわけ、後半の鉄道敷設シーンを含めた労働者の騒然とした描写にこの上ない臨場感があり、対する彼女の孤独を浮き彫りにして効果的。彼女と観る者を西部世界に没入させるようにシンクロして展開するモリコーネのテーマも、西部時代の可能性と血なまぐささ、そして女を襲う哀しみを予感させ、大味ながら複雑な滋味がある。主題のギターサウンドの異常なテンションの凄みは言うに及ばず。むせび泣きのようなハーモニカにしろ、これは、ほとんどモリコーネの「マカロニ演歌」とでも呼ぶべき世界だが、この姿勢は正しい。絶対的に正しい。終盤のカットバック(倒れ込む若き日のハーモニカ。当然ながら効果音は無音だ!)。復讐のテーマのラストの鐘の音(兄の死)から次のカットで一瞬の決着。フォンダの頭上に広がる奇跡的な「空」の色合い。素晴らしすぎる。

演出上は間違っている要素がほぼない(「奇跡的」な要素も散見されるにしろ)。これは凄いことだと思う。しかしこの隙のなさが脚本上の停滞にも影響していることも事実。早撃ちは一種の居合いだから静と動のバランスが肝心だ。観る者を没入させるための静を突き詰めてケレンとキャラクタの肉付けを詰め込めばそりゃあ言うまでも無く効果的だが、必然的に尺も長くなる。何も起こっていないようなシーンでも役者の感情は間断なく動いている。そのすばらしさは理解するが、一方でそれでもなお長いのも事実だ。あまりカッコつけてばかりいるのも問題である。カッコ良さには騙されんぞ。間違いなくダレてる部分や、「?」が点灯するシーンが散見される。

それでも長所が欠点を遙かに上回る。決闘シーンのカット割りや楽曲とのシンクロの要領のよさから判断しても、「カット」されたシーンがあることはほぼ明らかだ。この荒っぽくかつ繊細な奇跡は一種の自己陶酔映画の極致だろう。「恥じらい」というものは表現の敵となり得る。ここには恥じらいや疑いがない。あんなハーモニカなんて元来超ハズカシイはずなのだ。確信的なナルシズム。ここが一番凄い。有無を言わせぬ傑作。

(評価:★5)

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