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[コメント] バリー・リンドン(1975/米)

流石ですね先生。本当に意地悪。意地悪だなあ。珍しくちょっと優しいけど。ナイス。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







先生のフィルモグラフィー上、「作為的でない(自然)という作為」が特異だと思います。勝負をロケハンと自然照明に賭ける、という超絶的な覚悟。ズームアウトの多用に漲る空間構成、ロケハンセンスへの自信。前人未踏の「空気」の色(私は 室内より屋外、空の色に驚く)。カメラを回すまでにどれだけの忍耐があったか考えると鳥肌が立ちます。全編是油絵。唖然。

さて、「実験」でありながらも画が完璧であることは先生のことですから驚くまでもないことなのですが、どこまでも不自然にコントロールした画面にこそ映画的な「気」(殺気、狂気、艶気、妖気、血気・・・)を込めてきた先生。「自然の美」に先生の毒気が漂白されるかと一瞬心配してしまいました。しかし、これは全くの杞憂。むしろ「高貴」な自然的空気に「貴族(セレブ)」が垂れ流す欲望の滑稽は、作為的な先生の美の中での露悪とはまたひと味違った、リアルで「高尚」であるからこその生々しい先生の悪意を浮き彫りにし、照らし出すのでした。

「ほら、軍楽の調べにあわせてね、規則的にどんどん倒れて。だめだめ、悲鳴とかあげちゃだめだよ〜、もうね、人がゴミのようだあ、なんてツッコミもさせないぐらい無感情でコロコロ倒れるの!バタバタじゃないよ、コロコロ。死は劇的じゃないの。軍楽は愉しいよね、行進も愉しいよね、死ぬのはぜ〜んぜん怖くない。銃剣も軍服もカッコいいし。ほら、もう何のために戦ってるのか忘れちゃったでしょ?死ぬか、手持ちのギニーが増えるか、それだけなの。上司に頭来たりもしないでしょ?こんな日こそ雨も降らないし稲妻も走らないの。ジョン・ウィリアムズもかからないの。そんなの当たり前。ああ今日もいい天気だ」

「軍楽、イケてるでしょ?シンセのベートーベンやリゲティだのバルトークだのペンデレツキもいいけど、こういう音楽を使うからこそシーンがキレることも当然あるのよ〜。音楽ってこうやって使うんだぜ。あ、ミッキーマウスマーチ使うのもイケてるよなあ。きっと後生で真似するヤツとか出てくるよ。軍楽背景に日本軍の中国人虐殺なんていいかもね!カンヌいけるよ、カンヌ。でも後半はガチの宮廷音楽なの。バッハとかヘンデルとかヴィヴァルディ使ってやるの。ほら、高尚でしょ?気位高いでしょ?時代考証もハズさないのが、俺の抜け目のないところさ。画も見て、画。超キレイでしょ?でもそれに比して生活のこの空疎さ!欺瞞!賭博!化粧!酒!根回し!借金!頑張っててもどうやっても愚かなの。くだらないでしょ?俺がマジで「優雅」でキレイでお耽美な画と音撮ることなんかあるわけないんだから〜。でもね、最後はちょっとセンチメンタル。珍しく俺優しいかも。でも俺の悪意、ちゃんと理解してね〜。」

「ナレーションね、劇的にやっちゃだめ、あくまで 淡々とね。淡々とやればこそだからね。これはペーソスですからね。ライアン、ほら、もうちょっとぼけーっと。ぼーっとして。聡明な顔なんてするんじゃないよ、君は貴族的ハンサムかもしれないけど。そうそう、 手をぶら〜んとさせてね、首はちょっと斜め気味。キレイだけど土偶みたいな空っぽの目でね。ほらほらもうちょっとアホ面引き延ばし て、キレイな燭光で撮ってあげるから、ほら、間が肝心なんだから、ズームアウトして孤独も無知も愚かさも虚しさも撮ってあげるんだから〜、最後はちょっと人間的にサービスしてあげるんだから〜、んんんん〜はいOK!」

(評価:★5)

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