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[コメント] インヒアレント・ヴァイス(2014/米)

インヒアレント・ヴァイス、内在する欠陥。卵は割れる、船は沈む、国家は堕落する。中毒にしては治し、罪を犯しては贖罪する病魔。陽気に病んだ過渡期のアメリカ、象徴の迷路とクスリの酩酊の中で、それでも最後は明晰にドックは語りかける。「結局俺にはこれしかなかった。失われたり変質したりしたかもしれないが。で、あんたはどんな時代の、どんな愛を生きてんの?」実はセンチメンタルなPTAらしさが嬉しい一本。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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原作は注釈だらけで挫折したので、ピンチョンが企図したことと本作の整合性はよく分からない。ドック、ビッグフット、ウルフマン、スリープライ、ホープとか、人名だけで意味がありそうでいちいち引っかかるのだが、根っこはシンプルな話だと解釈したらしい描写に好感を持った。混迷と酩酊の中で信じられたのは束の間の「愛」(と言っていいのかよくわからないが)だけで、こっくりさんに導かれて夕立の中、二人して裸足でクスリを求めて走った、あくまで個人的な、真似したくはないが聖域的であるがために「羨ましい」としか言いようがない、一瞬の点描に尽きる。何故あんなに幸福そうなのだろう。不幸なはずなのに。週一本さんのレビュー通りで、いかにもPTAらしいとしか言いようがない。実はセンチメンタルで、ロマンティックなのだ。「質問をする人間は、既に答えを知ってることが多いんだ。シャスタを探せ。それが全てに繋がる」。ウィルソンの台詞もセンチメンタルを象徴する。ラストの、スポットライトを浴びたホアキンのカメラ目線の語りかけもいい。何も台詞はないので冒頭の台詞は私の妄想なのだが、普通の探偵小説よりも奥深い象徴の迷宮の中で、探偵小説らしい感傷が時代を超えたものになっており、PTAもそれを捉えた演出をしていると思う。

ウィルソン周りの描写がいい。彼らしいささやくような発声がキャラクターやテーマに合致している。家族のもとに戻った彼をホアキンが遠く車内から見守り、やがて視線を逸らす、いかにも探偵モノらしい、PTAには意外な程ベタな描写も混迷の描写の中で際立っている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)jollyjoker けにろん[*] ペペロンチーノ[*] 週一本[*]

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