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[コメント] イリュージョニスト(2010/英=仏)

失われる時代へのレクイエム。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







アリスが靴を焼くシーンは、タチシェフをいずれアリスがぼろ雑巾のように捨てる日が来るのではないか、という不安を抱かせる象徴的なシーンである。

二人の交情も単なる温かみではなくアリスのエゴや取り繕うタチシェフの宙をさまよう視線などの哀感が強調して描かれ、何より徹底して描かれるのは淘汰され失われる時代の象徴としてのタチシェフと周囲の道化師、軽業師、腹話術士の姿。

ライムライト』や『街の灯』との類似性が指摘されやすいと思うが、主題は時代の残酷さである。アリスとタチシェフが確かに心を通わせる瞬間(シチューのくだり)なども確かにあり、その温かさがまた尋常ではない分、後半のタチシェフの立ち回りが大仰であればあるほど滑稽が逆に哀感を際立たせ、腹話術士のくだりなどは胸をつかれて言葉も出ない。

そして、誰もいなくなったホテルの一室に残る余韻。本当にタチシェフは魔法使いではなかったのか?しかし、全ては過ぎ去る。ラスト、消灯して眠りにつく街並。「もうおやすみなさい」失われる時代への鎮魂の呼び声が聞こえるようである。賛辞でも耽溺でもないが慈しみに満ちた、失われる時代へのレクイエム。

・・・って、俺まだ20代なのにぼろぼろ泣いちゃったよ。どうしよう。

(日本版予告編の作りがある意味巧すぎるので、主旨を誤解されやしないかと心配なところである。)

(評価:★5)

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