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[コメント] イングロリアス・バスターズ(2009/米=独)

映画に対する愛よりも、映画に徒なす者への憎しみ。転じて愛。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







わざわざヒトラーとゲッベルスを映画館という空間で葬らなければならなかった理由を考えたい。映画は政治とは無縁のファンタジックな娯楽であると信じてきたタランティーノにとって、プロパガンダに映画を利用した彼らは、タランティーノにとっては映画を弄んだ悪魔に他ならず、歴史上最も憎むべき思想敵なのではないか。特に宣伝相ゲッベルスについては相当の敵意を抱いているとみえ、わざわざ登場時に役名を飾り字テロップで表示している(これに対してヒトラーにはない)。

タランティーノはこの作品に先立って『デス・プルーフ』で「映画かくあるべし」と映画への愛をむきだしにして、シンプルで強靭な原理主義的アクション映画を撮っている。「映画とはなんぞや」の映画論をストレートに押し出してきた監督の前屈み姿勢に僕は面食らい、「すげえ」と感服しながら「おいおい、急にマジになっちゃってどうしたんだい」と半ば苦笑気味に受け止めたのだが、延長戦があったようだ。今回は「憎むべき映画をあるべき映画の筋で葬る」という切り口で、「映画かくあるべし」を語ったのである。

愛ありきでなく憎しみから出発したところが従来と決定的に異なるところだと思う。今回のタランティーノは暗い。すんごく怒ってる。だからナチに復讐するショシャナの死のシーンは、タランティーノが量産してきたこれまでの死と全く異質な悲壮感が漂う。そしてそれがまさに「超映画的」なのだ。映画に徒なす者への憎しみ。でもそれは転じて本来の映画への愛を雄弁に語っている。その愛が本気であることを確信した大傑作。こういう形で映画と向き合った映画って、無かったと思う。

(評価:★5)

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