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[コメント] 河童のクゥと夏休み(2007/日)

露悪が極まればこそ希望も輝いていた。しかし原恵一は真面目な分何をするかわからない。抜き身の匕首を前に防御態勢を立て直す機を逸した私は怯え続けた。怖かった。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画において、「真摯」という名の誠意は、なかば「悪意」として働くことがある。それは本来私の好むものだし、甘い嘘がここにないことは分かっていたにも関わらず、心底震え上がった。TDRでトリアーに辻斬りされたような気分。「甘かった」と思った時には既に遅く、見慣れたはずの露悪が咆哮をあげて襲いかかる。

説教の内容は耳にタコが出来たものだった。にも関わらず口から泡飛ばし、いつビンタを張ってくるかわからない(しかもそのタイミングが巧妙)原のテンションと、しかもどこまでもそれが正論であるという有無を言わせぬ迫力に圧倒され、とにかく怯え続けた。

煽尼采さんが書かれているように、いつクゥが解剖されるか、『E.T』で未遂に終わったあのシーンの完遂、あれがついに実現するのか、と気が気でなく、父河童もおっさんもあっさり惨殺した原ならばあるいは・・・挙げ句に復讐のために集結した妖怪変化が大挙して首都圏を襲撃、自衛隊との戦闘の巻き添えになった市民の阿鼻叫喚、地獄絵図の戒厳令下、東京タワーの頂上で康一が絶叫「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」→「やめて!殺さないで!」→ここで満を持して使徒とデイタラボッチ登場その後は推して知るべし・・・なんて原さんは巧いし真面目だから、そんなカタストロフは間違ってもやらないのも分かるんだが、これはどこまでやるかわからない、と私が感じ、その恐怖を終始ぬぐえなかったのは間違いない。

野暮を承知で言う。ここまでしなくても子どもだって言いたいことはわかるよ。そういったことはきちんと親自身が自分の言葉で教育するべきなんだ。原さんにそのへん委託した覚えはない。「真摯さ」が何かを通り越してしまったような気がならない。

しかしエスカレートする恐怖の中でもきっちり私は感動した。康一の涙は重層的に意味を含んで、正味心に響いた。全て正論だし。その辺が私にとってのこの映画のタチの悪さであり、評価する方の根拠でもあるのだろう。

(評価:★3)

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