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[コメント] キング・コング(1933/米)

「みなさんの好奇心を満たします」
Bunge

特撮、アナログの味といったものを過大評価するつもりはないが、このキングコングは掛け値なしに楽しめることをお約束する。

内容としてはロバートロドリゲス作品やB級カンフー映画並に起伏無く災難が降りかかり続ける構成となっている。キングコングはそのようないかがわしい映画の中で今なお王者といった風格を感じさせる。

ファンタジー世界への引き込み方が上手い。やはり門だ。あの使用感、へこみ、磨り減り、汚れ、そして特大サイズのかんぬきの迫力。ロドリゲス監督作品のデスペラードに「レッツプレイ」という、嵐の前の静けさを打ち消すなかなか良い台詞があった。キングコングにおけるレッツプレイは開始30分ほどの時点であり、そこから70分もの時間だれさせないだけの魔法が込められているのだ。

ヒロインの叫びに対する工夫も感じられる。まず驚きのあまり声もでない様を芝居のリハーサルという形で観客に見せる。これによりキングコングに登場する人物はリアルな思考回路をしているのであり、恐怖を感じる状況でギャーギャー泣き叫ぶのは逆にうそ臭いという認識を持つ、現実的な世界観であることを示す。その伏線を効かせた上でいざコングと対面したヒロインは、間髪入れずにギャーギャーと泣き叫ぶのだ。どう見てもB級映画なのだが、作り手が機知に富んだ人間であることはこれで明白だろう。それはタイトルに書いた台詞にしたってそうだし、下衆な人間の代表に映画監督をチョイスしている点からも伺える。

人身売買、誘拐をするような「野蛮な土人」を登場させてはいるものの、作中で唯一英雄的な行動を見せるのは赤ん坊を助けた黒人の太ったおばさんである(船の乗組員がヒロインを助けに行く原理には集団心理が働いているためああして当然なのだ)。この思いやりあってこそ今でも純粋に楽しめるのであり、単純に好奇心を刺激するためにこういった場を選んだのだと納得させられる。恐竜なんて登場しなくてもストーリー上何の支障も無い。コングを本国へ運ぶ際、恐竜の屍骸を武勇伝の証拠として持ち帰らないのもおかしい。

しかし見せ方が抜群なのだ。霧に包まれ、湯気が立ち上り、ジャングルの植物は鬱陶しく生い茂る。どこから何がいつ飛び出すかわからないおもちゃ箱的な世界観といった感じだ。コングの所作は乱暴そのもので、ヒロインですら殺されかねない雰囲気に満ちている。本来はストーリーが本当に読めない映画なのだと思う。人生で一度だけヒトラーがうらやましいと思ったことがある。封切でこの映画を鑑賞し、熱狂した経験に対してだ。

コング=美しいロマンスというイメージの強かった私には、この欲望むき出しに暴れまわる五歳児のような姿は驚愕ものだった。初代コングが情け容赦なく科学兵器をぶち込まれてもさほど悲しさはわいてこない。おいたの過ぎた子供にお叱りが飛ぶのは当然であって、初代コングを見ている客はみな口をあんぐりと開けた紛うことなき五歳児なのだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)寒山拾得[*] ガリガリ博士 ぽんしゅう[*]

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