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[コメント] 七人の侍(1954/日)

ゾンビ映画の原点?
ExproZombiCreator

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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2010/10/11初鑑賞。

私の黒澤明に対するイメージは「迫力ある映像を撮れる演出力を持っているが、脚本レベルはそれなり、もしくは脚本を書いていない」というものでした。そのイメージが誤りであるという、皆さんからすれば今更説明するまでもない事を、つい昨日理解したのです。型にはまらず、娯楽に偏らず、文学的なものにも偏りすぎない見事なバランス感覚だと思います。今作には海外の思想を露骨にコピーしてきたようなところは見受けられず、実に日本的であり現代にも通じる物語だと思います。

また、「悪より一般大衆のほうが恐ろしい」というニュアンスはジョージ・A・ロメロ作品の源泉かと思われます(立て篭もり要素も似ています)。群集が物々しく動く映像は深作欣二作品のオープニングのようであり、北野武作品に至っては黒澤チルドレンそのものだと思いました。私の極々少ない映画鑑賞歴を振り返っても、これだけの影響を感じるのです。

再び話しは変わります。この作品は色んな意味で「全盛期でなければ撮れなかった」作品だと思います。『影武者』、『』を全盛期に撮っていれば『羅生門』以上の作品だったのではないでしょうか。対して晩年の彼が今作を撮っていれば、『』よりも眠い作品(駄作という意味でなく、タルコフスキー的なニュアンスです)になっていたと思います。娯楽的配慮は脚本的に見て、極めて少ないからです。

百姓の負の面を強調するために、悪者達の「悪の描写」を殆ど見せていないあたり、特にそう思います。敵をやっつけるカタルシスも無いとまでは言いませんが、プロットやアクションの工夫で補強している面は微少と思えます。食い入るように鑑賞できる理由は、画の迫力によるものが大きいのではないでしょうか――「何を撮るか」ではなく「どのようにして撮るか」という意味です。この作品は面白い映画ではなく飽きないor退屈しない映画であり、『あの夏、いちばん静かな海。』や『2001年宇宙の旅』と同類でしょう。この作品を娯楽作と言うのは、『若草物語(原作)』を娯楽作というくらい無理があります。普通の監督が撮れば冗長間違いなしの物語を、3時間以上に渡って楽しんで観られるのですから、黒澤明の力量がいかに凄かったかわかります。

ただし、ラストの百姓を評した台詞は、蛇足にも程があると思います。描写的伏線がまるで感じられず、あまりにも唐突ではないでしょうか。「また生き残った」という台詞にはプロット的統合性感じられ、そこで終われば深い余韻を残したのは間違いないのですが。ああいった大衆に媚びたような台詞を書くくらいならば、最初から「善良なる一般大衆」の虚構性をえぐる試みはするべきでないと感じます。そのために娯楽性が失われているのだから。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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