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[コメント] ナイト・オブ・ザ・リビングデッド ゾンビの誕生(1968/米)

オリジナル脚本によるホラー映画としては初の古典作品でしょうか
ExproZombiCreator

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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ホラーとしても娯楽作としても冴えまくっていまして『激突!』や『エル・マリアッチ』のような、無名監督時代特有の溢れ出るエネルギーを感じます。スピルバーグ、ロバロド、ロメロの三者に共通したところとして、処女作にして歴史に残る作品を撮った点が挙げられます。

古典の扱いを受けるようになって久しいですが、決め手となった要因の一つに「モノクロ」があると考えます。かなりグロテスクなシーンが存在しますが、モノクロなので凄惨さを抑える役割を果たしていまして、仮にカラーであれば批評家その他からの待遇に大きく差が出たのではないかと思います。

登場人物は個性的。特に主人公のベンはいわゆる正義の味方ではありませんが、行動力や決断力があるので娯楽要素を損ねてはいません。バランスの良いアンチヒーローでして『郵便配達は二度ベルを鳴らす』や『ダーティハリー』に負けていないかもしれません。感情的な面がありますが極限の状況というのもありますし、思いやりを見せる場面もあってリアルな人物を創ろうという意気込みが感じられます。またこれはベンを演じた俳優の功績が大きいという可能性もありますが、危機感についても上手く演出できていると思います。

ロメロといえば着目されがちな思想面ですが、この作品では「アンチ団結力」といった物を感じまして、事実作中ではあらゆる集団が崩壊していきます。私は当時のアメリカの世相に関してまるで無知でありますが、おそらく学生運動的なものが流行っていたのではないでしょうか。そこで監督やラッソは「即席の集団など主人公たちのように自滅したり、上手くまとまってもゾンビどものような破壊を生むだけだ」といったメッセージを込めているのではないかと思います。上品な風刺でありまして、この作品は『いちご白書』を喜んで観ていたような左翼気取りの当時の若者にも安心して観せる事が出来ます。それでいて、何らかの訴えかけたいものもちゃんと感じるのです。

話は集団に戻りますが、娘、兄、恋人想いの家族やカップルが登場します。これらの人物をクライマックスの直前までは一般娯楽作品のような親子愛やロマンスが展開され、物語が佳境となった段階で一気に畳み掛ける悲劇が心地よく、このストーリーはオマージュ元の『地球最後の男』とは全く別物であり純粋に賞賛に値するのではないでしょうか。

ゾンビ』と比較しますと、私としては甲乙つけ難い物があります……あえて強調するならば、無駄がこそぎ落とされ純度の高い今作のほうが「いわゆる古典」により相応しいのではないかと思います――そのような肩書きにどういった価値があるかはわかりませんが。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)けにろん[*] 3819695[*] Myurakz[*]

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